第二章 婦人病推拿総論


(一)


 推拿は疾病を治療する方法の一種です。だからといって、その施術原理と操作方法は深くて測れないとか、高くて登れないとかというものではありません。職業的な医療従事者はもちろんのこと、一般の人たちでも、ただその方法に対して興味を持ち、そして真剣になって施術方法の行い方を見習って、一定の驚喜するような感覚を体験したら、あなたは他人のためにも、或いは自分のためにも苦痛を取り除く“医者”に成ることができます。もし心優しいご主人ならば、病魔に悩まされている妻の苦痛を取り除くことができます。このことは、間違いなく、大いに関心を持って良いことです。妻に愛をもってつくす上でこれ以上のことがありましょうか、夫婦関係は睦まじくなりますし、相互理解は深まりますし、疑いなく良いことです。
 一つでも婦人科の病気があると、日常生活は痛みに邪魔されて煩わしいものになります。もし、婦人科関係の推拿について心得があれば、随時自分で保健治療ができます。自分の努力を疑わず、正確に分析して治療に当たれば、一定の効果があります。


一、推拿の診断方法

 推拿は中医の他の各科と同様に、弁証方法によって診断します。材料を集めて真剣に帰納分析して、異なる症状を弁別して、症に対して治療します。


(一)疼痛と検査

 疼痛の診断では、普通圧痛検査法を採用します。体表部位に出現する圧痛点により、経絡が所属する分布領域と体内の臓腑の部位を確定することができます。常用する検査法は、指圧、掌圧、叩打圧、関節屈伸圧などです。
 疼痛は、最も常見される症状ですが、疼痛を引き起こす原因は実に多種多様です。大まかに言えば、疼痛は実痛と虚痛の両種に分けます。
 実痛の原因の多くは、風寒湿などの外邪を感受したか、気が滞って悪血が生まれたか、痰濁が凝滞しているか、蛔虫や不消化物が溜まっているか、毒を飲んだり怪我をしたりといったことで、経絡がつまり、気血の運行がうまく行かなくなり疼痛が発生したものです。このことを「不通則痛」といいます。
 虚痛の原因の多くは、気血が不足しているか、陰精が損なわれて、臓腑経絡が栄養を失って起こります。
 一般に、新しい疼痛は、不断に持続し、痛みで按えられるの嫌がり、実証に属します。久病の疼痛は、痛みが緩和するときがあり、痛いところを按えられるのを好み、虚証に属します。
 疼痛の性質の違いに基いて、疼痛を引き起こした原因を弁別できますから、それによって治療します。これを「治病求因」といいます。

 1 脹痛:これは気滞による痛みの特徴です。
 2 刺痛:疼痛は針で刺される様、これは悪血による疼痛の特徴です。
 3 走竄痛:ある時は痛みは四肢の関節にあり、またある時は痛みは肩背部にある、すなわち、俗称游走痛です。
 4 気痛:疼痛部位は胸脇とお腹にあり、気が動くのがはっきりと感じられます。
 5 固定痛:即ち、一定の部位にあって痛む場合、肢体の部位が固定して痛む場合は多く寒湿痹証に見受けます。もし痛みが、胸脇部や腹部にある場合は、多くは悪血よって起こることが多いです。
 6 冷痛:多くは寒邪が絡脈をふさぐことによるか、あるいは陽気が不足して、臓腑や肢体が温養されないことによって引き起こされます。
 7 灼痛:痛みには灼熱感があり冷やすことを喜ぶので、灼痛といいますが、多くは火邪が絡脈に入り込んだか、或いは陰が不足して陽が盛んになりすぎたために引き起こされます。
 8 絞痛:疼痛は激烈で刃物でえぐられるようであり、多くは蛔虫や塊が気機を塞ぐか、寒邪が滞って気機を塞ぐことによって引き起こされます。
 9 隠痛:痛みはするけれども激しくはなく、忍耐できる程度だが、綿々と絶え間なく痛むもの。多くは気血の不足、身体の中が冷えている、身体の栄養不足などによって引き起こされます。病が体内に長く潜伏したために引き起こされるものです。
 10 重痛:疼痛には沈重の感覚があるので、重痛といわれます。多くは湿邪が気機を阻害するために引き起こされます。
 11 酸痛:疼痛にはだるくて力が入らない感覚を伴います。酸痛は多く湿証に見られますが、腰や膝の酸痛は多く腎虚に属します。
 12 掣痛:引きつるような引っぱられる痛みで、ひとつ所から別のところに痛みが達する、多くは経脈が栄養を失い、阻滞して通じなくなって引き起こされますが、掣痛は多く肝病と関係があります。
 13 空痛:空っぽな感覚を伴う痛みで、多くは気血精髄が不足して、経脈や内臓が潤いを失って引き起こされます。

 日常の生活で女性が最もよく経験する疼痛部位は、乳房、胸脇、腰部、下腹などです。
 
乳房・胸脇の疼痛は、多く肝病と関係があります。乳房と胸脇は肝胆の経脈が循っている部位だからです。肝が条達を失うと、気機が不利になり(気分がすぐれず、イライラが積もり、気鬱になると)、常に脹痛を引き起こします。乳房の脹痛には、虚実の別があります。実証はこれをおさえてみると塊があります。虚証はこれをおさえても柔らかく塊はありません。およそ、青春発育期の女性は、乳房が脹ったような軽い痛みがあるものですが、これは正常な生理現象です。
 腰痛は女性に常見される疾病ですが、多くは肝腎が弱ってきて引き起こされます。腰痛には虚実の別があり、もしシクシクとした痛みで柔らかければ、虚痛に属します。虚寒は温めたり、按えたりされるのを喜びます。陰虚は腰や脚がだるくて力が入りません。もし、腰部が痛んで按えられないときは、実痛に属します。瘀血、気滞、寒湿などによる場合です。女性の腰痛は虚証が多いです。
 下腹部痛は婦人科でもっとも常見される症状です。子宮は骨盤腔の中央にあって、直腸の前、膀胱の後ろ、正に下腹の位置にあります。卵巣の位置は下腹の左右両側にあります。ですから、婦人科の病気の多くは下腹部の疼痛或いは不快感として反応します。生活中の各種の異なった疼痛の性質に基づいて、弁証治療を行います。


(二)関節の変化

 健康な人の関節は敏捷に回るし、自在に屈伸します。関節の屈伸が制限される、紅く腫れて痛む、はなはだしい場合は関節が変形する、などはいずれも病気です。
 正常な人の頚は自在に回旋できます。もし頚がなまって力が入らなくなったら、気血精気が不足している現れです。目覚めたときに頚が強ばって動きにくいのは寝違いといいます。頭の屈伸や回旋が難しくなるのですが、多くは就眠しているときの姿勢が悪く、風寒の邪気が頚項部の経絡に侵入したことによるものです。頭項部の痛みが強く、悪寒発熱を伴うのは、多く風寒の邪気が太陽経脈を侵襲したことにより引き起こされます。うなじがつっぱって、高熱と頭痛があるのは、邪熱が陰を傷つけて、経脈が栄養を失うことにより引き起こされます。うなじが強ばって凝り、めまいなどの症状があるのは、陰が不足して陽が盛んになりすぎ、経気の流れが悪くなって引き起こされます。
 もし四肢の関節が強ばって、屈伸運動が制限され場合は、多く寒邪によるものです。その中で、屈曲できるが、伸展できない場合は経脈が攣急しているのであり、伸展はできるけど屈曲できないのは関節が強直しているということです。手足のひきつけは、邪熱が非常に盛んで、肝風が内動している痙病に見られます。手足が振るえて定まらないのは、気血がともに不足して、肝筋が栄養を失っているのです。下肢が萎えて歩けないのは、湿熱がうっ積して、下肢の筋脈に次第に染み込み、ぐらぐらにしてしまったのです。足や膝の関節が腫大して、大腿や下腿が痩せてくるのは、鶴膝風(結核性関節炎)に多く見られます。指の関節が腫大して、屈伸が難しくなるのは、風湿の凝縮に関係があり、肝と胃が衰えたことで引き起こされます。
 もし、腰部が痛んで、前屈や後伸ができず、寝返りが制限されるのは、寒湿が外から侵入して経気を滞らせたか、あるいは外傷やぎっくり腰によって血脈が滞って引き起こされます。診断検査に当たっては、外形の変化を観察するとともに、さらに屈伸検査を行い、また歩かせたり、座らせたり寝かしたりして、その動態変化を観察し、痛みの性質を分析します。


(三)月経血の変化

 月経は女子が男子と異なる重要な生理的な特徴です。月経には一定の周期、経気、経色、経量と性質があります。月経と月経の間隔を月経周期といい、一般には28日です。21日より短いものは周期が短すぎます、35日より長いものは周期が長すぎます。経期とは月経の持続期間のことで、一般には3~5日です。毎回の月経総量は50~80ミリリットルです。月経の主な成分は血液ですが、経血が多いと暗紅色になり、始まったときは浅い色で、続いて色は深くなり、最後にはまた浅くなります。性質はサラサラでも粘稠でもなく、固まってもいないし、血塊は無く、特殊な臭いもありません。
 もし、周期が短すぎて(先期)、量が多く、色が深紅色で、質が粘稠であるか或いは血塊が混ざる者は、多く血熱に属します。もし、周期が短すぎて、量が多く、色が淡く、質がサラサラの者は、多く気虚に属します。もし、周期が長すぎて、量が少なく、色が黒っぽくて、小さな血塊あり、下腹が冷え痛む者は、多く血寒に属します。周期が長すぎて、量が少なく、色が淡く、質がサラサラな者は、多く血虚に属します。周期が短すぎたり長すぎたり、量が多かったり少なかったり、色が黒紫で、小さな血塊があり、お腹がはって気持ちが悪い者は、多く肝鬱に属します。色が、紅紫で、量が多いとかタラタラと不断に出て、血塊が非常に多くしかもお腹が刺すように痛み、血塊が出たあとは痛みが楽になる者は、多く虚血瘀です。およそ妊娠可能な既婚女性で、月経が正常に経過していたものが、突然なくなった場合は、妊娠しているか否かに注意すべきです。
 正常な白帯(こしけ)は膣口を潤して、無色で、粘りがあり、臭いのない液体で、その量は多くありません。月経の前や、月経中、妊娠したときには白帯は少し量が増えますが、これは正常な生理的現象です。もし、帶下(こしけ)の量が明らかに多くて、色が白く、粘りのない者は、多く虚証、寒証に属します。色が黄色或いは赤くて粘りがある者は、多く熱証、実証に属します。帶下の量が多く、色が白くて涙や唾液のような者は、多く脾虚湿盛に属します。もし量が多くて、水のように稀薄な者は、多く腎陽虚衰に属します。帶下の色が、黄色、或いは白色、或いは赤色、タラタラと不断に漏れて、外陰部が痒くて堪らない者は、多く肝腎の湿熱が下注したものです。もし雑多な色が現れ、膿血状を呈しているものは、多く熱毒或いは湿毒に属しますが、悪性腫瘍がないかどうか注意しなくてはなりません。


(四)下腹の不調

 下腹部の疾病は、婦人科疾患の中で非常に大きな比重を占めています。これは、婦人科で常見される病気で、頻繁に発病するものです。およそ、女性が下腹部に不調感を覚えたら、下腹部を触診して、お腹を押さえて、腹壁が硬いか柔らかいか、暖かいか冷たいか、痛みの性質はどうか、塊があるかないかまたその場所や大小を調べます。月経痛の患者で、お腹をおさえると柔らかく、おさえると痛みがおさまり、温めるのを喜ぶ者は、多く虚寒に属します。おさえると痛みがひどくなり、おさえられるのを拒む者は、多く気滞血瘀に属します。下腹をなでて塊があり、おさえてみると堅く、推しても移動せず、圧迫すると痛みが甚だしい者は、多く血瘀に属し、癥と言います。おさえてみて、堅くなく、水を入れた袋のようで、推すと移動する場合は、多く気滞、痰凝に属し、瘕といいます。お腹をなでてみて、暖かくない、或いは冷たい者は、多くは陽気不足とします。なでてみて、灼熱感のある者は、多く熱盛とします。月経中或いは月経の前に下腹が痛み、おさえると余計に痛い者は、多く実証に属します。もし月経の後に下腹がシクシクと痛み、おさえると気持ちがいい者は、多く虚証に属します。月経中に下腹が冷え痛み、温めると楽になるのは、多く寒証に属します。月経前に下腹が脹って痛み、脹ってきたときに痛みがひどくなるのは、多く血瘀に属します。脹れるのがはなはだしいものは、多く気滞に属します。
 女性は受胎後は、下腹部の触診検査を行い、子宮の大小と妊娠期間が符合しているか、胎児の位置が正常かどうかなどを調べるべきです。


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