第二章 婦人病推拿総論

(二)


ニ、推拿の治療作用

 推拿は、中医の治療方法の一部分です。推拿療法は主に手法操作を通じて、その力を人体のツボ、経絡、皮膚、腱、筋肉、骨などに作用させて、疾病を予防・治療し、健康を増進するという目的に到達するものです。
 
推拿術を用いて疾病を治療することには、すでに3000年以上の歴史があります。実践によって証明されていることですが、推拿療法は操作が簡便であり、経済的にも安価であり、婦人病の治療についても、相当頼りになる治療効果があり、かつ副作用がありません。推拿は、婦人の治療や健康保健に際して、陰陽の平衡をもたらし(平衡陰陽)、経絡の通りをよくし(通経活絡)、気血を調節し(調理気血)、寒さを散らし熱を冷ます(散寒瀉熱)などの作用を果たします。


(一)平衡陰陽

 祖国の医学は次のように認識しています。人間は一個の統一した整体であって、気、血、津、液などの基本的な物質によって組成されており、しかもこれらの基本物質はまた陰陽の二つに大きく分類さます。陰陽の平衡、これは人体が正常な生理活動を行ううえでの基本的な保証です。臨床においてはもちろん、風寒湿などの外邪の侵襲(六淫外襲)、精神・感情のストレス(七情内傷)、不規則な過労や安逸(労逸不均)、転倒打撲などの外傷(趺仆損傷)など、すべて人体の陰陽の平衡状態を破壊することができるし、そうして各種の疾病をもたらすことができます。推拿は主に人体の皮膚・筋肉・骨格、経脈、ツボに施術して、気血を整え、陰陽を平衡させ、各種の原因によってもたらされた陰陽の失調状態を再び平衡させ、そのことによって症状を消失させ、疾病を治癒させることができます。もしもある個人が陰陽失調をきたすと、陽が盛んであれば必ず陰が衰え、陰が盛んであれば必ず陽が衰え、陰陽ともに衰えるという状況も出現します。もちろん、陰陽のどちらか一方が偏って盛んになったり、偏って衰えたりすれば、いずれも疾病を引き起こすことになり得ます。人体の陰陽は相対的に平衡していなければならないし、また互いに転化し影響しあわなくてはなりません。家庭で婦人病の推拿を行うに当たって、陽盛或いは陰盛の疾病に対処する場合には、瀉法の推拿手法を採用します。また、陽衰或いは陰衰の体質に対しては、温補的な推拿手法を採用します。即ち、推拿の補瀉を用いて、人体の陰陽を平衡させ、疾病の予防と治療という目的を達成するわけです。


(ニ)通経活絡

 人体の経絡は、“内は臓腑に属し、外は肢節を絡う”、これは、人体各部を連系して循っているということです。経絡の生理的な効能は主に経気の作用です。経気の運行が正常であれば、すなわち人体の各部位、臓腑は正常な機能を維持でき、外邪に抵抗して、人体をまもることができます。もちろん、家庭で自分で或いは他の人に推拿をしてもらう場合でも、経絡の疏通をよくすれば、気機は伸びやかになり、表裏は通じ、人体の病邪に対する抵抗力は増強します。
 俗に“一脈が不和ならば、周身が不遂である”といいます、すなわち
ある場所で経脈が滞れば、則全身が均しく不快な感じになります。経気の運行がうまく行っているか否かは、直接人体の健康状態に関係します。およそ、経気の運行が滞り、脈絡が通じなくなると、つまるところ、あれ、これの病変が生まれます。たとえば、十二正経の肺経が病を受けると、肺が脹満し、気がのびやにならず(不得宣泄)、多種類の疾病が生まれる;胃経が病を受けると、お腹が脹って、……等々。中医学の弁証の観点からすれば、経絡が邪を受ければ臓腑に影響し、臓腑に病があればかえって経絡に反応があるということです。推拿手法を行えば、経絡の疏通をよくし、経気の流れをよくするばかりではなく、外邪に抵抗し、はたまた、身体の素質を強くして、保健と延命を図ることになる所以です。


(三)調理気血

 気と血との関係は相互依存です。気には温煦、生化、推動、統摂の作用があり、血には濡養、運戴の作用があります。人体の気血は全身に分布し、環を描いて回り休むことなく運行し、そして人体の正常な生理活動を維持します。もし、気血の運行が失調したときには、人体は各種の病変に陥ります。気血の失調は婦人科の疾病をもたらす重要な原因の一つです。婦人の月経、妊娠、分娩、哺乳などはすべて血を以って行われ、血を最も消耗するものです。したがって身体の内部では往々にして血分が不足して、その結果気分が偏って余ることになります。“血は気の用となり、気は血の帥となる”所以です。気血は互いに生み・生まれる相互依存の関係にあり、したがって、常に気血同病の証候が出現します。たとえば、気滞血瘀や気血両虚などです。婦人科の中では、気血の失調は、往々にして直接或いは間接に衝任を損傷して、子宮に病理的な変化を発生させ、婦人科の疾患を引き起こし、月経,帯下、胎児、出産に関わる症状が現れます。これが婦人科の病理的な特徴です。
 推拿は、各種の異なる手法を使って、肌の表面に作用して、経脈、筋肉、腱、骨格を刺激して、浅いところから深いところへ入り、近いところから遠くへ及び、気血の流れを流暢にし、悪血を除いて血をきれいにし(活血化瘀)、気血を調節するという目的を果たします。経絡は内は臓腑に属し、外は四肢関節を絡い、身体の内・外を通り抜け、そうして人体の構成を一つの有機的に整ったものにしています。人体の気血の周流と循環によって、経絡はみな関連する通路になっています。ですから、推拿で経絡を刺激すれば、経絡の通りをよくし、実際に気血を調節し、気をめぐらし血をめぐらし、血を生き生きとさせ気をのびやかにします(血活気暢)。現代医学の研究によれば、推拿は少なからず血液循環を促進し、かつ血液の質量を高めることができ、皮膚温を上昇させ、局部の毛細血管を拡張し、血流を旺盛にし、人体の新陳代謝を促進します。


(四)散寒瀉熱

 寒は陰邪です。その性質は、清冷、凝滞、収引で、陽気を傷つけやすく、気機を収斂閉塞させ、気血の運行を阻害します。
 熱は陽邪です。その性質は蒸発炎上で、陰津を傷つけやすいものです。
婦人は、“血を以って本と為す”ですから、寒、熱、湿邪は血とあい呼応して婦人科のいろいろな症状を起こしやすいのです。寒邪が引き起こす婦人科の病変ですが、この病邪は主に生殖器系統に影響します。寒邪が皮膚の表面から侵入した場合は外寒です。原因の多くは、気候が急激に寒くなる、薄着をする、雨にぬれて冷える、もしくは婦人が月経のときや産褥期に、子宮が開いているときに、寒邪が外から襲入し、衝任に影響し、寒邪によって陽気が抑圧され、血管が収縮して、血流がなめらかさを失い、子宮を栄養する胞脉が阻滞して、月経不調、痛経、閉経、帶下増加、胎動不安、流産、産後の発熱、産後の身痛などの病症を引き起こします。これらは外寒による病で、実寒といいます。外寒の他に、もともと冷え症で活発でない(陽虚気滞)の体質なのに、生活のみだれ、冷たいものや生ものの食べすぎが加わると、臓腑、気血、経絡の凝滞を引き起こし、寒が中から生まれ、子宮などの機能に影響して、寒証の婦人科疾患を発生させます。これは内寒で、虚寒といいます。
 熱邪が引き起こす婦人科の疾病には火熱の邪を外感したものがありますが、熱入血室で、産褥期の感染などによるによる熱症です。もともと陽が盛んな婦人が、辛いもの熱いものを過食したり、精神的に過度に興奮すると、臓腑、陰陽、気血の失調を引き起こし、衝任を熱が乱して、月経過多、崩漏、月経時の吐血、流産、悪露が止まらないなどの症状が現れます。
 異なる寒熱の病変に対して針をし、一定の推拿の手法を運用して、患者の部位やツボを刺激し調節すれば、“寒すれば即ちこれを熱し、熱すれば即ちこれを寒す”という目的を達成できます。寒証に対して、身体に推拿の手法を施せば、病んでいる所を温めて、寒さで凝り固まっている(寒凝気滞)気血が経絡を流れるようにし、子宮と胞脉の機能を回復することができます。熱証に対して、身体に推拿の手法を施せば、熱を冷ますことができます。熱が表にあるときには、辛涼解表するのですが、薬物推拿を施すのがいいでしょう。熱が裏にあるときには、清瀉裏熱するのですが、刺激の強い指圧(推拿点按重手法)を主に施します。熱が血を騒がせる(熱邪動血)ときには、清熱涼血して、保健とストレス解消(保健強身、順気安神)の手法を主とします。


HOME BACK