第二章 婦人病推拿総論

(三)

三、常用推拿手法

 推拿は中医の外治法の一つで、それは主に手を用いて他人に施術を施したり、自分の保健のために施術したりするものです。推拿の作用は、直接患部に、或いは一定のツボに施して、経絡の通りをよくし(疏通経絡)、血をきれいにして悪血を除き(活血化瘀)、腫れをなくし痛みを抑える(消腫鎮痛)などの目的を果たします。推拿の施術手法は多種多様であり、その治療作用には違うところがありますが、大別すると、単式手法と複式手法の両種があり、綜合手法を用いることもできます。


(一)単式手法

 単式手法というのは、単純な一種の手法を用いて、患部或いはツボに施術して治療作用を発揮するものです。多く使う手法は推、拿、点、按、摩、揉、捏、揺、抖、圧などです。

  1.推法
 手の指、手のひら、拳、肘などを用いて、一定の部位に着力して、一方向に向かって穏やかに推します。
 一般によく用いるのは、手指で推す方法(手指推法)、手のひらで推す方法(掌推法)、両方のこぶしで押す方法(双拳推法)、肘で推す方法(肘推法)などです。推す回数は普通50回前後です。推す力や速さは施術部位や患者の身体状況に基づいて決めます。













  2.拿法
 母指と四指をあわせて力を入れるか、或いは四指と手のひらの付け根(掌根)でつかむように力を用いるかして、固定して動かさない手法です。普通肩関節や筋肉の豊満なところ用い、つかむ力は少しずつ強くし、強すぎてはなりません。平穏な力を均等に加え、そのまま時間は1分前後保持すべきです。





 3.点法
 指先をツボの上に置き、持続的に圧します。普通、1指点、両指点、多指点が用いられます。点法はツボを正確に取穴し、指によって針の感じに変えます。経絡やツボに作用して、経絡を通じて臓腑を調節します。治療と保健の必要に応じて点法の力は大小を加減しますが、必ず、軽から重へ、緩から急へという順に力を用いなくてはなりません。













 4.按法
 片方の手のひら(単手掌)或いは両方の手のひらを重ねて(双手掌)一定の部位を抑えます。身体の皮膚や筋肉に作用して、疲労を緩解させたり、筋肉の緊張をとるのに用います。按と圧には区別があります。按の力は、皮膚や筋肉をおしますが、深いところまでは透りません。




  5.摩法
 手のひら或いは指を一定の部位に置いてなでこすります(撫摩)。皮膚と筋肉に作用して、身体の皮膚の感覚機能を調節し、胸苦しさを取り除く(寛心舒展)作用があります。摩法の速度はあまり速くする必要はありません。また、強い力を用いる必要もありません、緩慢になでこすり、そうすることによって気は静まり眠くなります(安神催眠)。




 6.揉法
 指、手のひら、肘などを用いて、一定の部位、ツボに施術します。時計の方向或いは逆時計の方向、或いは上下左右にもみ動かします。そのまわす幅、力の大小、作用するツボは弁証に基づいて運用します。一般に保健養生の場合には、揉法は多く軽く揉んで、人にのびやかで快適な感じを与えるようにします。疾病を治療する場合には、軽く揉みながらも応えるようにして、筋肉や骨格の深いところにまで達するようにします。













  7.捏法
 片手または両手の母指と食指、中指、無名指をのばしてアヒルの嘴のようにして、一定の部位またはツボをつまみ合わせて、上下方向に沿って移動して、筋肉・腱・靭帯などに作用する。つまむ力は適当にし、移動は速くします。






 8.揺法
 片手または両手で関節の一端をしっかりと握り、時計回りまたは逆時計回りに揺り動かす。頚を揺らす(揺頚)、腕を揺らす(揺臂)、手首を揺らす(搖腕)、お尻を揺らす(揺臀)、腕を揺らす(揺腕)、太ももを揺らす(揺大腿)、足首を揺らす(揺踝関節)などがあります。揺法を行うときには筋肉を弛緩させ、緊張を取り、揺り動かす度合いは大きくなりすぎないように、我慢できる範囲内とします。















  9.抖法 
 片手または両手で患肢の一端をしっかりと握り、そこから離れた末端も同時に引っ張られるように、上下または左右の方向に突然一回ゆすります。抖法といいますが、二人がかりでしてもいいです。







  10.圧法
 指、手のひら、肘関節、足の裏などで患者の筋肉、骨格、ツボなどを下に向けて深く圧します。力を入れて強く圧す時には、力を受ける部位の内部構造を熟知して、骨格を損傷したり、内部を傷つけることのないようにします。













(ニ)複式手法

 複式手法は同時に二種類以上の手法を採用して、同じ操作時間内に局部またはツボに施術するもので、各種の手法を配合して、協調させて、単一手法では足らないところを補います。臨床において、治療と保健の作用を高めます。よく用いられる複式手法は:点揉法、推揉法、掐揉法、圧揉法、按摩法、捏脊法、掐按法、拍叩法、弾撥法、牽引法等等。

 1.点揉法
 点法と揉法の両種の動作を結合した複式推拿手法です。目的の作用すべきツボに点して、揉んで補助し、皮膚や絡脈の外表の痛みを緩解します。点按しながら、同時に回旋揉動するわけです。






 2.推揉法
 推法と揉法の両種の動作を結合した複式推拿法です。推と揉の両方の力を配合協調させて、均等な力を加えます。操作に際しては、経脈に沿って推行していき、皮膚や筋肉に対して揉動するわけです。(即ち、経脈上で、筋肉と骨格に推行と同時に揉動の手法を配合するのです。)




 3.掐揉法
 つねる法(掐法)と揉法の二つの動作を結合した複式推拿法です。一般に母指と食指または中指の末節で操作し、屈曲した指先をツボまたは局部において、深く抓ると同時に揉動する手法です。抓る力を主としてツボを刺激し、揉んで補い、抓り過ぎないように緩解します。



 4.圧揉法
 圧法と揉法を結合した複式推拿手法です。一般に臨床では足踏み圧(足踏圧)または手のひら重ね圧(掌重圧)で下に向けて患部に深部圧を加え同時に揉動を配合する手法です。圧は重量の力、揉は運動の力、揉動は圧力の刺激作用を増加することができます。






 5.按摩法
 按法と摩法を結合した、複式推拿手法です。手指または手掌で皮膚をなでこすると同時に、挙げたり降ろしたりしながら下に向けて按圧します。人に爽快感とほぐれていく感じを与えます。両種の手法を穏やかに行えば、気を静めて(安神)、血液循環を促進し、疲労を取り除くなどの作用があります。





 6.捏脊法
 摘む法(捏法)と引き上げる法(提法)の両種の手法を結合した複式推拿手法です。両手の食指を少し曲げて、母指と相対して、皮膚と筋肉をしっかりつまみ、その後上に向けて引っ張り上げ、引っ張り上げながら同時につまみます。捏法で皮膚筋肉をしっかりとつまみ、提法で経脈を牽引し、配合を適当にすれば、経脈を調整して、気をめぐらして血をきれいに(行気活血)できますします。


 7.掐按法
 抓る法(掐法)と按法の両種の手法を結合した複式推拿手法です。抓ると同時に指先に力を込めてツボを按圧し、力を骨格にまで深く浸透させ、時間はやや長くします。抓るのは迅速に、おさえるのは穏やかに、こうしてツボに正確に、刺針するように強く瀉す法です。






 8.拍叩法
 手のひらでたたく法(拍法)と指先や拳でたたく法(叩法)の両種の手法を結合した複式推拿手法です。手のひらで一定の部位を拍打すると同時に、指や拳を使って叩く法を配合する手法です。指の速度はやや速く、叩く力はやや強く、両者の運用が当を得れば、緊張が取れて、凝りがほぐれる感じがします。



 9.弾撥法
 術者の手指で患者の局部を深く抓り、その後筋脈を弾いたり、揺すったりして、患者にだるい、しびれる、腫れぼったい、痛いなどの感覚が生まれるようにします。弾撥法を使用するときには、速度は軽快に、力は適度にする必要があります。虚弱体質の人にはやりすぎるとよろしくありません。






 10.牽引法
 術者一人で或いは別の一人とともに、患者の肢体の両端を固定して、相反する方向に牽引して、関節や靭帯を引き伸ばし、粘りついたり、痙攣しているのを緩解します。この種の牽引は他の方法でもできます。たとえば、重しを使って頭部を牽引するなどです。一般の手法の牽引時間は比較的短く、機械を使った牽引時間は少なくとも15分間とし、ただし牽引の力は大きくしてはなりません。



(三)綜合手法

綜合手法は推拿の手法に薬物、食べ物、或いはその他の設備を配合して、総合的に施術を行う手法です。各種の手法を配合するのは、主に治療効果を増強したり、治療期間を短縮したり、副作用を減少させるのが目的です。一般に婦人科で用いられる手法には温めた塩、温めた卵、温めた葱や艾の葉、薬酒、吸い玉、塗り薬、熏洗、ドライヤーなどなどがあります。

 1.塩熨法
 良質の塩を鍋に入れて、炒めて熱くし、絹布を巻いて縛り、患者の局所を暖めます。この方法は婦人の寒湿による腹痛、痛経などに用います。





 2.蛋熨法
 鶏卵をゆでて、熱が冷めないうちに、卵を一定の部位に当てます。この方法は産後のめまいや頭痛、心下部の冷え痛みなどに用います。使用済みの鶏卵は食べられません。





 3.葱艾熨法
 一定量の葱や艾の葉を鍋に入れて、炒めて温め、ガーゼに包み、患者の局所を暖めます。婦人科疾患の筋肉の疼痛、背中や胸の冷え込み、四肢の冷えなどに常用します。





 4.酒葯法
 一定の処方による中薬を、お酒の中に浸すのですが、一般にはおよそ1週間です。薬酒は、各種の推拿手法のうち、ツボを点揉したり患部を擦洗するときに常用しますが、手法の治療効果を顕著に増強することができます。風湿性の関節の痛み、外傷による腫れ、打撲症などに対して、保健と治療の作用があります。




 5.抜鑵法
 火鑵をツボや一定の部位に吸着させて、その温熱と吸着作用を利用して治療効果を生む方法です。抜鑵法は投火法、閃火法、走鑵法、薬鑵法などに分けることができます。臨床で推拿手法に配合して綜合的に運用すれば、各種の婦人科の疾患に対して大変良い保健と治療の作用があります。




 6.敷貼法
 一定の処方による中薬や、草薬を搗き砕いたり、磨ってこまかくし、ゴマ油や卵白に調合して、推拿の施術のあとに、外用としてツボや局所に塗りつけて治療作用を生む方法です。







 7.熏洗法
 一定の処方による中薬または草薬を水から煎じつめた後、外用として一定の部位を熏洗して治療作用を得る方法です。婦人科では頭部、陰部及び四肢の関節に常用します。婦人の皮膚病にも治療作用があります。





 8.電吹風法
 ドライヤーの風を直接皮膚に吹き付けて、その温熱作用を利用して治療効果をもたらす方法です。この方法を一定の按摩推拿の手法に配合すれば、身体の疲労を緩解することができるし、風湿性の関節の痛み、寒湿痺証に対して治療作用があります。


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