(二)家庭での推拿の十法



推拿をするときの注意点
 1:持久
 数分間にわたって同じ動作を繰り返して、一定の圧力を保ちながら持続します。患部が緩むまでには時間がかかります。数十分かかることもあります。
 2:有力
 急に力を強めたり弱めたりしないで、適切な一定の力の強さを保ちます。
 3:リズム
 急に速くしたり遅くしたりしないで、一定のリズムを持って行います。
 4:柔和
 手法を変えたり、右手から左手に移るときにも、なめらかで滞りなく行います。
 5:浸透
 微妙な振動や、圧力で深いところまで刺激を浸透させます。




1.推法
 推(スイ、おす)法は、指、掌、拳等の部位を人体の皮膚の一定の部位あるいは経絡上に着けて、前後、上下、左右に直線的に推動する(推し動かす)手法です(図11)。手法の軽重は適度でなくてはならず、適当な圧力を保持して、穏やかに着け、速度は平均して、緩やかに始めて次第に速くする、頻度は毎分50~150回。 本法は疏通経絡、活血化瘀、清利頭目、開胸導滞、緩痙鎮痛(経絡の通りをよくする、血に活力を与え悪血を取り除く、頭や目をすっきりさせる、胸のつかえた感じをなくする、ひきつりを緩めて痛みを鎮める)などの効能があります。



2.拿法
 拿(ナ、つかまえる)法は、母指と次指、中指の両指、あるいは母指と他の四指が相対するように力を用い、一定の部位と穴位の上をリズミカルに提捏する(持ち上げながらつまむ)手法です(図12)。指の腹を着けて、提拿の方向は皮膚に対して垂直にし、動作は敏捷迅速に、手法は一貫させ、力に停滞があってはなりません。本法は去風散寒、開竅止痛、疏通経絡、活血舒筋、解除疲労(風を去って寒さを散す、目・耳・鼻など穴の開いた器官をすっきりさせて痛みを止める、経絡の通りをよくする、血に活力を与えて筋肉の過緊張をゆるめる、疲労を取り除く)などの効能があります。



3.按法
 按(アン、おさえる)法は、指、掌(てのひら)、肘などの部位を一定の部位あるいは穴位上において、次第に下に向けて按圧して、治療目的を達する手法です(図13)。本法は調気活血、疏通経脉、誘導止痛、鬆解拘攣、整骨理節、矯正畸形(気を調えて血に活力を与える、経脈の通りをよくする、痛みを止める、拘縮痙攣をゆるめる、整骨や関節の調整をする、奇形を矯正する)などの作用があります。一般に軽い按は補法になり、重い按は瀉法になると認められています。



4.摩法
 摩(マ、なでる)法は、指面あるいは掌面(てのひら)を一定の部位あるいは穴位上に付着して、環を描くようにリズミカルに撫摩する(なでさする)手法です(図14)。その作用力は温和で軽妙にし、頻度は毎分100回前後が宜しいです。本法は和中理気、活血散瘀、調和営衛、消積導滞(お腹を和らげて気をととのえる、血に活力を与えて悪血を散らす、体表の機能を調和させる、うっ滞しているものを消し去る)などの効能があります。



5.点法
 点法は、手の母指、中指あるいは指節関節を用いて穴位を点圧し、はじめは軽く次第に重く加圧していく手法です(図15)。本法は按法のやり方よりも、力点が小さいので、それだけ刺激が強いです。操作する時には具体な情況に基づいて力を斟酌しなくてはなりません。この方法は開通閉塞、活血 止痛、調整臓腑(塞がっている所を開通させる、血に活力を与える、痛みを止める、内蔵を調整する)という功能作用があります。



6.擦法
 擦(サツ、こする)法は、手掌(てのひら)の母指球、掌根(手のひらの付け根)あるいは小指球を一定の部位に付着して、直線的に往復させる摩擦手法です(図16)。操作時の動作は平均的に連続させ、力は穏かでなくてはなりません。頻度は比較的速く、毎分100~150回にすべきです。治療する時には充分皮膚を露呈するように注意し、そして皮膚の上に潤滑剤(たとえばワセリン、パラフィン油、薬物油剤など)を塗り、皮膚を擦って傷つけるのを防止します。本法は一種の柔和な温熱刺激であり、温経通絡、行気活血、健脾和胃、去風散寒、温補元陽(経絡を暖めて通りをよくする、気をめぐらして血に活力を与える、胃腸の調子をととのえ健やかにする、風を去り寒を散らす、気力体力の元を温めて補う)などの功能があります。



7.揉法
 揉(ジュウ、もむ)法は、指、掌(てのひら)、拳(こぶし)などの部位を用いて、一定の部位あるいは穴位上(指、掌は接触している皮膚から離しません)において、柔和な旋転運動を行う手法です(図17)。本法は軽く柔らかく穏やかにおこない、頻度は比較的緩慢にし、一般に毎分50~90回とし、刺激量は小さいです。寛胸理気、消積導滞、活血去瘀、消腫止痛、降逆止嘔(胸のつかえをとり呼吸しやすくする、うっ滞しているものを消す、血に活力を与えて悪血を去る、腫れを消して痛みを止める、嘔吐をおさめる)などの作用があり、全身の各部に適用します。



8.滾法
 滾(コン、ころがす)法は、手背を患者の身体あるいは一定穴位においてコロコロと転がす手法です。操作するときには手は拳(こぶし)を半分握った状態にして、小指球の側面を皮膚に接触し、腕関節を連続してリズミカルに転がします(図18)。施術時の注意は、肘関節を少し曲げ、小指球の背側を皮膚に付着させ、手首の瞬発力で、第三、四、五中手骨の背面が患処あるいは穴位につくように間断なく転がす動作を行いますが、用いる力は平均させ、跳動、打撃と摩擦を起こさせてはなりません。滾法の圧力は大きく、接触面は比較的に大きいので、舒筋活血、滑利関節、緩解筋肉・靭帯痙攣、滑利関節,緩解肌肉、靭帯痙攣,増強肌肉、靭帯活動能力,促進血液循環及消除肌肉疲労 (筋を緩めて血に活力を与える、関節の動きをなめらかにする、筋肉・靭帯の活動能力を増強する、血液循環を促進するおよび筋肉疲労を除去する)などの作用があります。肩背、腰臀及び四肢など筋肉が比較的に豊かで厚い部位に適用します。
注:「滾」の原字は「扌へん」ですが、IMEパットに無い字なので、私の翻訳では「滾」で代用します。なお、滾にも「ころがす」と意味があります。



9.搓法
 搓(サ、こする)法は、両方の手のひらで一定の部位を挟み、相い対する力を用いて快速に擦り揉みし、同時に上下に繰り返し移動する推拿手法です(図19)。操作時には両手の力を対称的に用い、搓動(こする動き)は速く、移動は緩慢にしなくてはなりません。搓法は調和気血、舒筋通絡(気と血を調和させる、スジを緩めて通りをよくする)という作用があり、腰背、脇肋及び四肢部に適用しますが、上肢部に最も常用します。一般に推拿治療を終わるときの手法とします。



10.撃法
 撃(ゲキ、うつ)法は、手のひら、小指球あるいは空拳(緩やかに握ったこぶし)などの手法で施術部位をリズミカルに撃打します(図20)。その力が皮下組織と筋肉に達するようにします。四肢及び腰背部に多用しますが、その作用力は深く浸透します。患者の体質及び適応力に基づいて、拍打回数と強度を順次増加していきます。操作時には肩、肘関節の力を抜くように注意して、手首の力で、上下の拍動的な協調運動を作ります。この法は行気活血、疏通経絡、固腎健脾、強身健体 (気をめぐらして血に活力を与える、経絡の通りをよくする、精力をしっかり固め消化機能を健やかにする、からだを強健にする)という作用があります。

HOME  家庭での沐浴と推拿