十六、脱 肛



(一)概説
 脱肛はまた直腸脱垂といいますが,これは肛門管、直腸が下に向かって肛門の外に脱出するものです。高齢者と1〜3歳の児童に多くみられます。小児で体が弱い、高齢者で体が弱っている、久病で機能が低下している、長期の下痢、婦人の産後、もともと痔疾を患っているなどが原因で,直腸粘膜の下層組織と肛門括約筋が弛緩して,あるいは直腸の発育不全および支持組織が緩んで無力となり発病します。主要な臨床表現は排便時あるいはその他の原因で腹内圧が増加した時に腫れた物が肛門から脱出し,後自然に納まったりあるいは手で推し込むということになります。
 中医学では次のように説明します。本病の原因とそのメカニズムは、素体虚弱、中気不足或労力耗気(もともと身体が虚弱なのに、胃腸の働く力が不足してきたり、あるいは働きすぎて気力を消耗してしまった)、子供をたくさん生み育てたり,大病や久病で気虚失摂(納めておく力がなくなってしまった)したことによります。
  症状表現
 @排便する時,甚しいと咳嗽(セキ)あるいは歩いたときに肛門から脱出する物があり,円錐形あるいは円形状をしている。
 A病歴に長期にわたる下痢がある;
 B肛門を指診すると程度の差はあるが括約筋が緩んでいる;
 C発病は緩慢、病程は長い。
 D同時に腫れ物が下に落ちてしまうような感じがし、疼痛もある。あるいは裏急後重(しぶりばら)に似た現象。



(ニ)沐浴法
 薬水坐浴法を採用します。用薬:苦参50g,五味子20g,枯礬10g,石榴皮30g,升麻10g,柴胡10g,黄60g、白朮30g、枳売30g。上薬を水から煎じて,カスを濾し,適当な温度になるのを待って,坐浴。毎回10〜15分間。



(三)推拿の穴位と手法

 @手指で頭頂の百会穴を按圧(おさえる)。約1〜3分間(図209)。





 A両手を重ねて臍部に置き,腹部を按摩(おさえなでる),先ず時計方向に旋転50回、次に逆時計方向に旋転50回,旋転する範囲ははじめは小さく逐次大きくする(図210)。












 B手指で腹部の臍の下3寸の関元穴、臍の上1寸の水分穴と臍の傍ら2寸の天枢穴を点按(しあつ)。各穴点按2〜3分間,だるい、しびれる、はれぼったい感覚が生じたら宜しい(図211)。









 C手指で下腿部の膝下3寸、脛骨外側の足三里穴を按圧(おさえる),両下腿同時に,あるいは交替に行う,それぞれ5分間(図212)。









 D手指で尾骨尖端の下の長強穴を点按(しあつ)2〜3分間(図213)。



(四)注意事項
 @重労働を避けて、注意して休息。
 A排便後には温熱水洗浴を堅持して,手で脱出した直腸は肛門に送入。
 B注意して便通を良い状態に保つ。
 C呼吸と合わせて行う肛門収縮の練習。息を吸う時には、地面をつかむような感じで両足の十指の先に力をいれ、足心は浮かすようにして,両手は息を吸うにしたがって拳を握り次第に強く握り締め、(排便を我慢するときのように)力を込めて肛門を収縮する,この時全身の筋肉を次第に緊張させていき,息を吸い終わったときに,全身の力が頂点に達するようにして,ほぼ一呼吸そのまま保持して,呼気に転じます。ゆっくりと息を吐きながら,両足の十指、両手、肛門、全身の筋肉を上から下へと,次第に力を緩めていき、息を吐きつくしたときに,全身の筋肉が弛緩状態になるようにします。收縮、弛緩を交替に行い,毎回10分間。推拿の後に行うのが一番宜しいです。

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