第一章 沐浴と推拿のすばらしい組み合わせ



一、沐浴による保健と治療



  沐浴は、人類文明の象徴です。
  歴史が伝えるように、人類は出現して以来、体を洗い沐浴してきました。沐浴は、単に人々の清潔で衛生的にという要求だけではなく、数千年の実践が証明しているように、沐浴は有効な保健治療の一つであり、美容と皮膚を守り、身体を強健にする重要な方法の一つです。愛国詩人の屈原の〈離騒〉の中に“新たに沐したものは必ず冠を弾き、新たに浴した者は必ず衣を振るう”という詩句があります。《札記・曲札》には“頭に瘡(カサ)があればすなわち沐し、身に瘡があればすなわち浴す”との記載があります。春秋戦国時代の成書である中医学の経典著作《黄帝内経》の中に、外邪を受けて引き起こした疾病に対して、明確な治療法を提出して:“その邪には、体を漬けて汗を出す”とありますが、これは熱浴発汗を利用して邪を去り病を治す方法です。《千金要方・養性》の説くところは:“たびたび体の沐浴をして、清浄に務めれば、精神も安らぎ目標を達成できる”と説いています。《老老恒言・盥洗》で説いているのは:“浴した後は陽気が盛んになるから、必ず顔を洗って気をのびやかにするとよろしい。”これによると、沐浴は皮膚を清潔にする作用があるだけではなくて、あわせて調暢気血、安神暢志(気血を調えてのびやかにし、精神状態を安定させて志をのびやかにする)という効用があるということです。
 沐浴するとき、水温の違いによって、受ける刺激はそれぞれ異なります。温水の沐浴をするときには、体温が1度上昇すると汗が出はじめ、熱を発散させ、体内の発熱機能を働かせ、同時に呼吸の頻度は増加し、血液循環は加速し、新陳代謝を促進します。自律神経系の作用に対しては、高温での熱水浴の時には交感神経の興奮度を増強することができ、微温水浴の時には副交感神経を優勢にし、鎮静作用があり、神経衰弱の回復に有利です。
 入浴のときに、人体が受ける物理的な静水圧の作用は、身長165〜175cmの人が浴槽に漬かると、およそ1200〜1300kgの圧力をうけ、胸囲や腹囲を縮小させ、体表の静脈血やリンパ液を回流させ、心臓の負担は増加し、これにより、胸腹部に対する静水圧の作用は呼吸筋を活発にし、心臓の機能を鍛錬しますから、運動鍛錬の不足している人には特別に有益です。
 シャワーをするときに、その噴水口は格好のマイナスイオン発生器です。これは噴水口が細い水流を噴射するときに、空気中に大量のマイナスイオンを作り出すからです。マイナスイオンは一種の特殊な“ビタミン”で、それは人体の新陳代謝を促進し、協調して老廃物を排除し、有機体の生長と発育に有益であり、人体の抵抗力を高めますが、併せて咳を鎮め、眠りを促がし、血圧を降げ、疲労を取り除くなどの作用を持っています。
  沐浴はこのように人体に保健作用があるだけでなく、いくつかの病症に対しては治療することもできます。たとえば感冒発熱、不眠、皮膚掻痒などは、暖かく芳香のある湯で沐浴すると往々にして薬を使わないで癒すことができます。
  人類の発展とともに、薬物が発見され、医療活動は不断に展開してきましたが、沐浴の方法も純水浴から次第に薬水浴への変化が出てきて、水中に適当な薬物を入れたり、煎じ薬で沐浴することにより、さらに多くの疾病を治療することができるようになりました。
  東漢時代の著名な医学家張仲景の《傷寒雑病論》中には多くの洗浴による治病方法が記載されています。たとえば、苦参を煎じた湯で陰部の潰瘍を洗って治療したり、ミョウバン石を煎じた水に足を浸して脚気を治療する等です。それ以後、歴代、薬浴の方法はいろいろ発展するところがあり、清代に至り、薬水沐浴に関する説はすでに成熟し完成しました。清代の医家呉尚先の《理寄虚カ》は、先人の沐浴療法を集めて大成したものですが、そこでは外治と内治の理論的メカニズムの統一原則を提出しました。その説は:“外治の理はすなわち内治の理である;外治の薬はすなわち内治の薬である、異なるのは方法のみである。”と。清代の宮廷中の、《慈禧光緒医方選議》の一書の記載に基づくと、薬水沐浴の占める割合は大変大きく、慈禧、光緒が平時に常用した沐浴方はこの一書に65個収集されています。たとえば、光緒の栄筋活絡洗葯方(宣木瓜9g,松節9g,赤芍12g,透骨草6g,青風藤9g,乳香6g,没葯6g、紅花6g,当帰12g,天仙藤9g)は、血を養って筋肉に栄養を与え、血をきれいにして通りをよくし、肝を柔らかくして痛みを止める効果があり,水から煎じて沐浴すれば風湿による痺痛を治療できます。又、慈禧の沐浴方(谷精草36g,茵陳36g,石決明36g,桑枝36g,白菊花36g,木瓜45g,桑叶45g,青皮45g)は、熱を取り去って病的な水分を除き,頭と目をすっきりさせる作用があり,水から煎じて沐浴すれば皮膚病を予防治療し,皮膚の健康を護り,同時に目赤、頭痛に対しても治療作用があります。このような薬水浴方は,その薬物成分が皮膚バリアーを透過して血液循環に進入し、あるいは経脈,絡脈を通過して,全身に対しての作用を作り出し、疾病を予防治療するという効果をもたらします。
 沐浴療法はたくさんあります。冷水浴、温(熱)水浴、蒸気浴、薬水浴、日光浴、空気浴、海水浴、鉱泉水浴等。 はじめの四種は家庭の中で行う水浴方法で、家庭での気軽な楽しみ、暖かい香りと美のなかでの保健・治病を享受できます。あとの四種は大自然の中における沐浴方法で、家庭を出て、大自然の懐に抱かれて、海水、砂辺、湖畔、森林、田園、山村、温泉など優雅で清潔、風景秀麗の地方に一家を挙げて遊びに出かけ、大自然の陽光や雨露を沐浴し、気性をみがき、胸懐をのびやかにし、身体を鍛錬し、病をしりぞけ寿命をのばします。宋代の大詩人陸游の《山園晩興》の詩中で道中を描写して、“病骨初軽野興濃,閑扶柱杖夕陽中。草枯陂澤涓涓水,水落園林淅風。”と疾病の身で初めて日光浴、空気浴をしたときの雅興を表現しています。 西漢の著名な辞賦家枚乗の《七発》に記述していることには、楚の太子に疾があり、呉の客がこれを治療して説くことには“木々の多い林を散策し,美しい澤を駆け周り,川辺で駒をとめ”,そうして“陽気にうっとりとし,春心をほしいままにしなさい”と。大自然での沐浴が人の心身に対する作用を説明しつくしています。のどかで暖かい陽光、清新な空気、ロマン的な海洋、暖かく馨る鉱泉。大自然の美を喜ぶとともに、大自然のあなたの身体に対する調節と治療を得ることができます。沐浴の方法を運用すれば、保健と治療の二重の作用を手に入れることができます。

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