八、頭髪養護の沐浴推拿



(一)概説
 頭髪と皮膚はどちらも身体の健康状態を映す鏡です。秀美な頭髪の人は精神が充実しているように見え、容貌は生き生きとして、風采は倍増します。頭髪が、若いのに禿げたり白くなるのは早老の現われで、がっかりさせたり、気落ちさせたりするものです。
 人の頭髪にはおよそ10〜15万の毛根が有り、毛根部の末梢には膨らんだ小球、毛球といわれるものが有ります。毛球には毛母細胞が集まっていて、頭髪の発生、生長と色をきめますが、毛母細胞の活躍分裂とそれが分泌する色素顆粒が決定的に影響します。毛母細胞が分泌する黒色素が多ければ頭髪は黒くなります。少なければ、頭髪の色は黄色くなり、はなはだ少なければ白髪になります。頭髪は平均して毎日0.35mm前後生長しますが、頭髪の成長衰退には一定の周期(ヘアサイクル)があり、生長期、退行期、静止期を経過します。男性の生長期の頭髪は83%を占め、頭頂部では、年齢の増加とともに、生長期の頭髪は減少し、静止期の頭髪が増加します。ですから男性は頭頂部が禿げ易いのです。女性の生長期の頭髪は87%を占め、男性に比べると密集しています。老年の人の生長期の頭髪は僅か20.33%を占めるだけですから、頭髪はまばらになり、生長は緩慢になります。人間には成長期の頭髪が約85%あり、その他は退行期と静止期にあります。ですから、頭髪は毎日約80〜100本が自然に脱落しますが、これは新陳代謝の結果であって、正常な生理現象です。したがって、毎日頭髪をブラッシングする時に数十本の頭髪が抜けるからといって恐れたり、落胆する必要はありません。
 頭髪の形、太さ細さ、色、長短、数量、生長などに影響する因子は大変たくさんありますが、その中では内分泌から受ける影響が最も大きいです。とりわけ男性ホルモンとの関係が密接であり、男性ホルモンは男性型脱毛を促進します。頭髪の栄枯と栄養とは密接に関係しており、頭髪はアミノ酸を成分としているので、もしも栄養の欠乏や消化不良、病気により引き起こされた栄養障害があれば、頭髪の毛母細胞は頭髪に必要な栄養を作れなくなり、頭髪はまばらになり、枯れたようになり、白くなったり脱毛したりします。頭皮の表面には常に頭皮の屑、汗、皮脂などの代謝産物がありますから、その上に細菌が生長繁殖して、これらの産物が分解して皮膚を刺激しますし、空気中のいろいろな塵埃も積もって刺激しますが、いずれも頭皮の疾病を引き起こします。ですから、沐浴して頭を洗い頭部を清潔衛生に保つことは立派な頭髪を護る重要な一環ですが、更にこのこと以外に、こまめにブラッシングし、常に按摩することも必要です。浴後に頭部を推拿按摩すれば血管を通りをよくして、頭部の血液循環を改善し、頭髪に滋養を与え、頭髪を光潤にし、毛根をしっかりさせ、脱毛や若白毛を防止することができます。また、目をすっきりさせ、頭痛を緩解し、感冒を予防することもできます。血圧を下げる助けにもなりますから、脳溢血などの疾病の予防にもなります。頭脳労働者に対しては、常に頭部を按摩すれば、脳を刺激して健やかにし、疲労を回復させます。健康で美しく立派な頭髪でありたいと思いませんか。下記の方法に基づいて試して御覧なさい、思わぬ効果がありますよ。



(ニ)沐浴法
 頭髪については、「頭髪をいったい何日に一回洗えばよいのか。これは人にもよりますし、時にもよります。一般には、乾燥性の頭髪で、カサカサして光沢のない者は10〜15日に一回、脂ぎってもおらず乾燥もしていない中性の頭髪は7日に一回、油性の頭髪は5日に一回洗うのがよいとされています。頭を洗う水は熱すぎても冷たすぎてもいけません。熱すぎると頭皮を熱で傷つけやすく、傷ついた頭髪はすかすかでもろく切れやすくなります。冷たすぎると垢や皮脂が落ちにくくなります。適温は37〜38℃です。薬水で頭を洗っても良いですが、そのときは“護発養発方”で洗えば、清利頭目、去屑止痒、潔髪養髪(頭と眼をすっきりさせる、フケを取って痒みを止める、髪をきれいにして栄養を与える)という功用があります。洗髪には洗髪剤を使用し石鹸は使わないようにします。石鹸にはアルカリ成分が含まれていますから、頭髪はカサカサに黄色くなって自然の光沢を失ってしまいます。洗髪剤(シャンプー)には表面活性剤、抗硬水剤および頭皮の屑を除く成分が含まれていて、水中のカルシウム、マグネシウムのイオンを結合しますから、頭髪に弾力性と光沢がでます。
 訳者注:洗髪回数については、頭髪の状況に応じて加減する必要があると理解すればいいでしょう。



(三)推拿の穴位と手法

 @両手の十指を自然に開いて、指腹あるいは指端で頭部を梳抹(ソマツ、くしけづるようにこする)します。額の前髪際から項部に向けて梳抹します。50回ほどで、頭皮がやや暖かくなって来たら止めます。(図72)。




 A両手の手指を頭髪の表皮に挿入して、往復させ交錯させて按揉(アンジュウ、おさえもみ)します。5分間持続し頭皮が発熱したら止めます(図73)。






 B手指で頭皮を軽くたたきます。少しずつ頭全体に行います。5分間叩いて、頭皮を発熱させます(図74)。



(四)注意事項
 @頭を頻繁に洗わないほうが良いです。頭髪を保養しようとして一生懸命頭を洗うと返ってマイナスになります。皮脂は毎日頭髪に添って脂肪酸を分泌していますが、毛髪に潤いを与えるだけでなく、抗菌作用も持っているのです。
 Aアルカリ性石鹸で頭を洗うのはよくありません。アルカリ性石鹸は皮膚から脂肪を強力に取り除き、皮膚表面の酸アルカリの平衡関係を失調させ、表皮を傷つけあるいは頭髪の組成を変えてしまい、病原菌が繁殖しやすい条件にし、さらにアルカリ性石鹸は頭皮の上皮細胞を刺激し、それを角質化させ、頭屑(ふけ)を生み頭皮を乾燥させ、かゆみを生み、頭髪の正常の寿命を短縮し、頭髪がカサカサの黄色になって、抜けるのを速めます。
 Bパーマネントをかけすぎるのもよくありません。半年か1年に一回ぐらいの間隔がいいです。パーマは利益が少なくて弊害が多いものです。熱いパーマは頭髪内部の組成を破壊して、もともとあった油脂を著しく減少させて、頭髪は容易にカサカサの黄色になって先が割れて、もろくなります。コールドパーマの化学薬液は、多くの炭酸水素ナトリウムとアンモニア水などを含んでいますから、頭髪、頭皮のいずれをも損傷し、コールドパーマを頻繁にしたり、持続時間が長いと頭髪の組成を損傷して、硫黄を造成したりアラニンを増やして、頭髪の弾力性を低下させ、変形と断裂を引き起こします。
 C合理的に飲食物を組み合わせます。もしも人体に長期にわたってたんぱく質と鉄分が欠乏すると、血液が酸性化して頭髪は黄色に変わります。ビタミンA、ヨウ素とカルシウムが欠乏するときには乾燥して、光沢がなくなり、切れやすくなります。ビタミンB、A、Eなどが欠乏すると脱毛現象が現れます。ですから、多様な飲食物を摂取するのが宜しいです。ビタミンB、A、Eを比較的多く含む食材(雑穀類、豆類、縁色野菜、黒ゴマ、新鮮なカキチシャ、果物など)、銅、鉄、コバルトを多く含む蔬菜(ホウレンソウ、トマト、馬鈴薯など)および植物性たんぱく質と必須アミノ酸・非必須アミノ酸を含む食材(黒豆、トウモロコシ、大豆など)、そしてヨウ素、カルシウム、たんぱく質などが豊富な食材(コンブ、ノリ、魚、生乳、鶏卵、落花生など)を多く食べるべきです。これらの食物はすべて頭髪の健康美を促進する天然の健康食品です。脂ぎって脱毛の多い人は、糖類や、脂肪類の食品を少なくする必要があります。
 Dゆったりとした気持ちを保つことです。精神的な原因で脱毛や、白髪が引き起こされることはよくあります。古代の春秋の時代に伍子胥が昭関を通り過ぎるときに一夜にして白髪になってしまったという故事がありますが、この説にはいささか誇張があるとしても、一定の道理があります。気持ちをゆったりともって、楽天的に過ごせば、からだの健康に良いばかりではなくてて、頭髪の健康美にも有益です。
 訳者注:パーマの事情、石鹸・シャンプーの事情、洗髪習慣は中国と日本では違いますから、やり方によっては有害なこともあるということを念頭に注意するということでしょう。

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