一、沐浴による保健と治療


(八)鉱泉浴(温泉)
 鉱泉浴は天然の鉱泉水を利用して入浴したり、シャワーしたりして保健と疾病の予防をする方法です。
 わが国は世界で鉱泉を利用して治病をしたもっとも早い国家の一つで、陜西臨潼の華清池では早くも2000年以上前にすでに鉱泉沐浴を利用して疾病を治療していました。唐朝に発見された蘭田湯峪温泉、遼寧湯崗子泉等,すべて非常に著名です。わが国の鉱泉源は非常に豊富で、近年地質学的に全面的に調査した結果、すでに発見された温泉はなんと3000以上の多きに達しています。その中で資源が豊富なのは雲南で、温泉が482ヶ所あります。その次は広東で温泉が231ヶ所あります。更にその次は台湾で103ヶ所あります。また玉泉谷の高温高酸温泉は最も有名で,水温は100度を超えることがあり、お湯が集まった熱水湖です。わが国の西藏高原、太行山、呂梁山、天山、崑崙山、四川盆地、柴達木盆地と内蒙などの地方には多くの温泉が分布しています。
 鉱泉は地殻の深層の地下水から来るもので、一定の地温を帯びており、鉱泉水温の高低に基づいて分類すると、冷鉱泉(25℃以下)、微温鉱泉(25〜34℃)、温鉱泉(34〜38℃)、熱鉱泉(38〜43℃)、高熱鉱泉(43℃以上)があります。鉱泉水中には硫黄質、鉱物質、炭酸ガス、硫化水素、リン、カルシウム、マグネシウム、鉄、カリウム、ナトリウム、ストロンチウム、ラジウム、塩素、フッ素等の元素からラドン、窒素、遊離二酸化炭素などの気体、さらには放射性元素を含んでいます。そうして清潔な皮膚、健康な身体を作り出す特異な治療効果のある鉱泉を形成しています。酸性度・アルカリ度(pH値)に基づいて分類すると、強酸性泉(pH値2あるいは2以下))、酸性泉(pH値2以上、4以下)、中性泉(pH値6〜7.5の間)、弱アルカリ性泉(pH値大は7.5から小は8.5)、アルカリ性泉(pH値大は8.5から小は10)、強アルカリ性泉(pH値10以上)があります。
 鉱泉の保健、治病の作用は,主に泉水の化学的成分、温熱機能、鉱水の特殊な圧力、浮力にあり、人体の皮膚と内臓、とりわけ神経、内分泌、免疫および新陳代謝などの系統に総合的に作用します。その化学的作用の主要な現象は鉱泉水中のマイナス・プラスイオン、遊離気体、微量元素および放射性物質が不断に体表と体内の感受器官を刺激し、中枢神経の調節機能を改善することです。たとえば、カリウムイオンは神経末梢を刺激して、血管拡張運動に影響し、体内の蛋白、脂肪および糖の合成を促進します。マグネシウムイオンは肝臓の糖代謝に関わり、神経と筋肉の興奮性を低下させ、さらに血圧と血液中のコレステロールの含有量を低下させます。硫化水素は痒みを止め、皮膚の角質層を軟化し解毒する作用があります。ラドンは人体に吸入された後、神経の興奮性を低下させ、鎮静、鎮痛と抗炎、ならびに血液循環を改善し、新陳代謝を促進します。その物理的な作用は温熱作用と機械的作用に分けることができますが、皮膚に対する温熱は心臓血管、呼吸器系統、胃腸機能,免疫機構などに有益な刺激を作りだします。機械的な作用は主に静水圧、浮力および鉱泉水中の液体粒子の皮膚に対する按摩作用です。これらの総合作用は大脳皮質が次第に正常な協調活動を形成することを促し、失調している身体の病理過程を抑制し、次第に正常に替え、そうして慢性病を緩解あるいは回復させます。
 現在、わが国で医療保健の沐浴に用いる温泉には次の数種類があります。 

 1 単純泉:
 一般に水温は25℃以上で、水中の遊離二酸化炭素と固形成分の含有量はリットルあたり1000mg以下です。単純温泉は主に温熱が医療作用を生みます。

 2 硫黄泉
 水中には主に硫化水素を含みます。この硫黄成分は皮膚に接触したのち硫化ソーダに変成し、角質層に溶解して皮膚を軟化することができます。硫黄泉は疥、癬などの皮膚病を起こす寄生生物に対して殺滅作用があり、寄生生物を殺して痒みをとめることができます。そのほかに、硫黄泉は血管拡張と去痰止咳の作用があり、“去痰浴水”の美称があります。

 3 明礬泉:
 水中には主に硫酸アルミニウムとアルミニウムイオンと硫酸イオンを含みます。明礬泉は皮膚と粘膜に対して消炎作用があり、皮膚の瘡瘍と湿疹に対して治療効果があります。

 4 炭酸泉:
 一般に遊離二酸化炭素をリットルあたり1000mg以上含み、固形成分の含有量は1000mg以下の地熱水を指します。水温が低いときには毛細血管を拡張させて、血圧を下降させ、心臓機能を増強するのに比較的好い効果をもっています。

 5 炭酸塩類泉:
 水中に二酸化炭素と固形成分の総量をリットルあたり1000mg以上含むものです。その主要成分は陰イオンである炭酸と陽イオンであるカルシウム、マグネシウムです。炭酸塩類泉は皮膚の炎症を取り除き、神経を興奮させ、血管の内皮細胞の浸透作用を低下させます。

 6 食塩泉:
 水中にリットルあたり1000ml以上の食塩を含みます。沐浴すると、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムなどの塩化物が皮膚に付着して、体温が放散するのを防ぎますから、入浴後の温暖感は大変強いです。神経痛、風湿病と婦人の冷感症に大変好い治療効果があります。

 7 ソーダ泉:
 水中に重炭酸ナトリウムをリットルあたり1000mg以上含みます。ソーダ泉には石けん様の作用があり、皮脂を乳化させ、皮膚は非常になめらかになります。ソーダ浴後には体温が放散しやすいので、清涼感がありますから、“涼爽浴”という美称があります。

 8 放射能泉:
 水中にラジウム、ラドンを3.5ME以上含むものです。放射能泉は一般にすべてに対して刺激作用を持っていますが、特別に細胞分裂が旺盛な組織に対しては抑制作用を起こしやすいです。また別に貧血と骨疾患に対しても治療効果がありますし、あわせて白血球を増加する作用もあります。

 鉱泉浴は健康な人に対しては、皮膚の抵抗力を高め、神経の機能を調節し、血液循環を加速し、新陳代謝を促進し、皮膚を紅潤、潔白、柔嫩にして、たおやかで美しい風采にします。鉱泉浴の治病範囲は相当に広く、多種類の皮膚病すべてに大変いい治療効果がありますし、風湿性関節炎、類風湿性関節炎、坐骨神経痛、心臓血管、呼吸器、消化器系統の疾病、婦人科疾患、単純性肥満症などに顕著な効果があります。わが国では風景秀麗な温泉地に療養院、旅館を建設しており、家庭からの観光に情趣を添えていますから、家庭の保健、治病にとって理想の場所です。
 鉱泉浴は自分自身の状況に基づいて沐浴方法を選択すべきです。

 1 入浴:
 湯船あるいは温泉池に仰臥または坐ります。水温は一般に35〜40℃前後に保ち、毎回20〜30分入浴します(図9)。
 2 シャワー浴:
 たくさん穴の開いたシャワー用ノズルを使って、上から下まで全身をシャワーするか、あるいは水圧を強くしたノズルで躯幹、四肢に対してシャワーします。水温は一般に38〜42℃前後とし毎回15〜25分間シャワーします(図10)。
 3 局部浴:
 患者の状況に基づいて、局部的に入浴したり、洗ったりします。たとえば温泉に手、足、下肢を浸したり、半身浴をしたり、肛門の周囲や外陰部を洗うなど自分の状況に合わせて柔軟におこないます。

 鉱泉浴のあとは、静かに横になって休息し、同時に適当な推拿方法を選んで、推拿按摩をおこなえば、養生保健、疾病の治療に大変いい効果があります。

 注意:沐浴している時に、動悸、めまい、悪心などの症状が出たら直ちに温泉から出て、寝て休息します。入浴後は薄い塩水を飲んで体内の水と電解質の消耗を補充します。
 放射線の沐浴を選用した後は、石鹸で身体を洗浄するのはよくありません。沈殿物の形で皮膚に付着しているラドンは、入浴後にあっても依然としてその放射活性の治療作用を継続して発揮できるのです。慢性肝炎、胆嚢炎、腎炎、肺結核及重症の虚血性心疾患(頻発性の狭心症)等の患者は硫化水素を含む(硫黄泉は硫化水素を含む)鉱泉治療を用いることは禁止です。このほか、硫化水素泉を選んで沐浴するときには室内の通風を確保して、硫化水素による中毒を予防します。

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