ニ十ニ、乳房痛(乳腺炎)



(一)概説
 乳房痛は産婦に常に見られる病ですが、初産婦に最も多く見られます。西洋医学では急性乳腺炎といいますが、乳房が紅く腫れて、甚だしいときには潰れて膿が出るのが特徴です。本病の原因は、一つには細菌が乳頭の小さな皺の裂け口から進入して、リンパ管を経由して乳腺葉および葉間組織に蔓延して急性の炎症を起こす場合;二つには細菌が直接に乳腺管に沿って侵入し、乳腺内に急性の炎症を引き起こす場合。身体の抵抗力が低下しているときおよび乳汁の排出がスムーズでないときには、乳汁が鬱積して、細菌が大量に繁殖しやすくなり組織を破壊する作用が起こり、急性乳腺炎になります。
 中医学では;本病は多く産後に乳汁がうっ滞して分泌できなくなり、日にちが経って敗乳が蓄積し、熱をもって膿をかもし、乳癰(ニュウヨウ)となる、といいます。
  症状表現
  ①乳汁鬱積期:病気の初期には悪寒、発熱など全身症状、続いて乳腺の腫脹・疼痛、境界のはっきりしない腫塊があらわれ、触ったときの痛みがはっきりしていて、皮膚が微かに紅いなど;
  ②蜂窩組織炎期:炎症が継続発展して、悪寒・高熱があり、乳腺の疼痛は激しさを加え、表面は紅く腫れて発熱し波動感がある:
  ③膿腫形成期:炎症は局限性の膿腫を形成し、浅い膿腫は波動感がはっきりしていて、体表が破れつぶれることがあります、深部の膿腫は適時に切開して排膿しないと広範な蜂窩状の壊死層ができてしまいます。沐浴推拿はただ初期で膿腫が形成される前に適応します、乳汁鬱積期に時機を失しないで薬水浴と推拿を行えば良好な効果があります。あとの両期になったらすぐに病院で治療を受けなくてはなりません。



(ニ)沐浴法
 薬水浴を採用。薬用:蒲公英100g、銀花100g、連翹50g、当帰尾50g、紅花15g、路路通50g。水から煎じてカスを去り、液を濾して、熱い間に先ず薬水の蒸気を患部の乳房に当て、水温が適当になるのを待って、タオルを薬水にちょっと浸けて乳房の局部を洗います、毎回20分間。



(三)推拿の穴位と手法

 ①乳房の腫塊の辺りを、手指あるいは小指球で軽く柔かく按摩2~3分間(図245)。









 ②両手で乳房を下から支え、手のひら(小指側)であるいは手指の指腹で両側から乳頭の方向に推す、手法は少しずつ力を入れていき、反復して行って、乳汁を流出させる。もし乳頭から乳汁が流出せず、ただ白点が見えるだけの場合には、消毒した針でほじくってから継続して手根の周囲を按摩し、腫塊のところから乳頭に向けて両側から推して、黄色の液体あるいは乳汁をしぼり出します(図246)。








 ③手指で乳根穴を点按(しあつ)、毎回2~3分間(図 247)。











 ④手指であるいは手のひらの付け根で両乳房の間、胸骨の中線で第4肋間の水平線上の膻中穴を按揉(アンジュウ、おしもみ)、毎回2~3分間(図248)。










 ⑤手のひらで乳頭の下第6肋間の期門穴を推擦(スイサツ、おしこする)、斜め上方向から前下方へ向かって推擦、反復して、約2分間(図249)。








 ⑥大拇指で手の虎口の合谷穴を按圧(おさえる)、だるい、しびれる、はれぼったい感覚が生じたら宜しい(図250)。




 ⑦拇指、食指、中指で力を入れて肩の僧帽筋の処の肩井穴を提拿(テイナ、つまんでもちあげる)、両手で同時に行う10~30回(図251)。



(四)注意事項
 ①授乳期には乳房を清潔にするように注意する、毎日温水で擦って洗う。
 ②授乳後は吸乳器を使って余分の乳汁を吸出し、乳汁のうっ積を防ぐ。
 ③授乳後は手で乳房を軽く柔かく按摩。
 ④乳頭に傷口ができたりあるいは乳腺炎を患っているときには、患側での授乳は停止する、ただし両手で余分の乳汁を搾り出して、空らにしなくてはならない。

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