五、失眠(不眠)



(一)概説
 失眠(不眠)は習慣的に眠れないことを特徴とする症状です。臨床表現は同じではありません、寝つきが悪い(入眠障害)、途中目が覚めやすい・眠ったり目覚めたり(熟睡障害)、甚しいときは一晩中眠れないなどいろいろあります。頑固な者は往々にして頭暈(頭がくらくらする)、頭痛、健忘、動悸(どうき)などの症状を伴います。不眠の原因はたいへん多く、多種類の素因から影響を受けます。たとえば、環境素因、心理素因、身体健康素因など。
 中医学では次のように説明します。思慮労倦は心脾虧虚あるいは心胆虚怯を致す(考え込むことが多かったり過労が重なると精神機能や消化機能が弱ってきたり、あるいは胆力が失われておどろきやすくなる);陰虚火旺は心腎不交あるいは肝陽偏亢を致す(精力が衰えてのぼせてくると心のバランスが失われイライラが募ってくる);湿痰壅遏、胃中不和(病的な水分がたまって胃のなかがおかしくなる)など、いずれも均しく心神不寧(心神の不安定)に導いて不眠になると。その病理のメカニズムはすべて気血不和、臓腑失調、心神不安(気と血の不調和、内蔵の機能失調、心神の不安)の致すところです。
 本症は西洋医学の神経衰弱に似ています。
  症状表現
  @睡眠障害、たとえば、入眠困難、多夢、易醒(目覚めやすい)、醒后不解乏(寝起きが悪い)など;
  A精神疲倦、肢軟乏力(精神的な倦怠感と、身体の脱力感);
  B常伴有心悸、健忘、飲食無味等(常に動悸や、物忘れ、飲食の味がしないなどの症状を伴う)。



(ニ)沐浴法
 温水浴を採用しますが、水の温度は37℃がいいです。入浴時間は15分前後。あるいは薬水浴を用いるときには、“安枕無憂方”を選用して15分間入浴します。養心安神、鎮静安眠、清心除煩(心を養って精神を安定させる、鎮静させて安眠させる、心を清めて煩わしさを除く)という作用を具えています。あるいは熱水足湯で、10〜15分間。入浴後、推拿按摩をします。習慣的に温泉に入ったり、海水浴へ行ったり、さらには空気浴、日光浴を結合して補助治療とします。



(三)推拿の穴位と手法

 @両手の拇指の指腹先で両眉の間の印堂穴を点按(指圧)し、その後印堂穴から開始して、眉弓に沿って両側に向かい対揉(ツイジュウ、ついにしてもむ)し太陽穴に至ります。揉みながら移動して、反復按揉(アンジュウ、おさえもみ)約3分間(図123)。



 A両拇指腹で内眼角の睛明穴を点圧し、その後左右に分かれて上下の眼瞼をこすります。動作は軽く柔かく、2分間行います(図124)。





 B両手の拇指の指腹を額上の正中に置き、左右同時に内から外へ向かって額部を推抹(スイマツ、おしこする)します。反復2分間(図125)。





 C両拇指で両眉中の印堂穴より按圧(アンアツ)して頭頂の百会穴に至ります。反復2分間(図126)。





 D手指で両側の手根横紋の尺側端のやや上方の陥凹部神門穴を点按(テンアン、しあつ)し、だるい、しびれる、はれぼったい感覚が生じたら良しとします(図127)。






 E手指で耳後の乳様突起下縁の安眠穴を点按(テンアン、しあつ)しますが、力は適度とし、1分間(図128)。



(四)注意事項
 @規律正しい生活をして、労働と休養を適度にする。
 A睡眠前の飲酒、濃茶、コーヒー、喫煙などをさける。
 B心は朗らかに、何ごとも楽観し、穏やかな心で処事にあたる。
 C体育鍛煉して、体質を強くする、特に精神労働者はこのことに注意。

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