一、沐浴による保健と治療



(四)薬水浴
 薬水浴は水浴から発展しましたが、水浴に比べると薬物成分が多く、そのためその適応範囲は更に広く、保健と治療の作用は更に顕著です。一般に全身浴と局部の洗浴に分けられます。
 
  1、全身入浴:
 適宜の薬物配合を選用して、薬物を煎じたあと薬のカスを濾して取り去り、薬液を清潔に消毒した盥あるいは浴槽に投入して、熱水を加え、水温を適当な温度に保ち、そうして入浴します。一般に毎回の入浴時間は15分以上とします(図5)。
 水温が適度であるように注意し、寒い日の入浴は保温に注意し、浴後は直ちに身体を拭き、寒さや風を避けます。食前食後の30分以内の入浴は宜しくありません。虚血性心疾患、心臓機能不全、高血圧および出血傾向のある病人は本法を使用するのは宜しくありません。

  2、局部洗浴:
①頭面浴:

 煎じて濾過した暖かい薬水をそのまま用いて、髪を洗い、洗顔します。頭面浴は顔を美しく栄養し、髪を護り美しくする良好な効果をもたらします。頭面部の疾病、たとえばにきび、黄褐斑、できもの、癬などに大変良い治療作用があります。
②坐浴:
 薬液を盥の中に混入して、患者を盥の中に座らせて洗浴し、薬液を直接陰部と肛門に浸透させ、性欲減退、勃起不全、早漏等の疾病、あるいは陰部と肛門両方の局部の疾病を治療します。適温にするように注意します。
③手足四肢浴:
 暖かい薬水を用いて手足四肢を洗浴しますが、一面では皮膚を栄養保護し、皮膚の老化を防止し、手足を美しくできます。別の一面では局部の病損、たとえば関節炎、手足の凍瘡などを治療できます。

 薬水浴は薬物治療と理学的治療の総合で、全体としてみると、沐浴をしている過程で、水温刺激、物理的刺激、化学的刺激、薬物の吸収など薬と水の協同作用があります。薬物は皮膚粘膜を通過して吸収され、角質層と表皮の深層に移りますし、別に角質層は水と作用して、薬物が吸収されやすくなり、直接血液循環に進入します。また別に、薬、水の各種の物理的、化学的構成要素の皮膚局部に対する刺激は、経絡系統の調整を経て、臓腑機能の失調を正し、疾病治療の目的を果たします。薬水浴の後、さらに適当な推拿按摩を施せば、気血を調えて流れをよくし、経絡の通りをよくする作用により、疾病の予防と治療、身体の強化と保健、皮膚を護り美容する特殊効果を可能にします。



附;常用薬水浴の処方
 1、護髪養髪方
 桑叶15g、防風20g、羌活10g、白芷10g、甘菊15g、川芎5g、薄荷5g、側柏叶25g、藁本15g。以上の薬に水を適量加え、15分間煮沸してカスを去り、適温になるのを待って、沐髪します。毎回15~20分間。この方は日常の頭髪の保健に適用しますと、脱毛を予防する作用もあります。頭と目をすっきりさせ、ふけをとって痒みをとめ、髪をきれいにし栄養します。
 2、玉面美容方
 川芎10g、細辛5g、藁本10g、白茯苓15g、白附子10g、鶏血藤30g、藿香15g、甘松10g、白芷10g、白芨10g、冬瓜子15g、檀香10g。以上の薬に水を適量加え、15分間煮沸してカスを去り、温度が適当になった後、顔を洗います。毎回10~15分間。この方は日常の皮膚の保健に適用して、肌の衰えを防ぎ、美容、悦顔(うれしい顔)、美白の作用があります。黄褐斑の治療に用いることもできます。
 3、香身洗澡方
 赤小豆200g、大豆200g、冬瓜仁150g、丁香20g、零陵香50g、茅香50g、藁本150g、杏仁150g、花粉150g、鶏血藤250g、益母草150g、石南藤150g。以上の薬に水を加えて、25~30分間煮沸して液を濾してカスを去り、全身の沐浴をします。この方は日常の皮膚の保養に適用し、皮膚病を予防治療し、身体に香りをつけ皮膚を護り、皮膚を滋潤栄養する作用があります。
 4、軽身減肥方
 防己60g、黄芪100g、蒼朮100g、白朮60g、陳皮50g、白芥子30g、冬瓜皮200g、帰尾30g、鶏血藤150g、桂枝60g、澤瀉100g、茯苓150g、威霊仙30g、麻黄50g、生大黄60g、芒硝30g。以上の薬に水を加えて、25~30分間煮沸してかすを濾して、全身入浴をします。単純性肥満症の治療に適用し、病理的な水分をきれいにしてむくみを取り、滞っている瘀血をめぐらし、脾~消化器系統を健やかにして余分の水分をのぞき、身体を軽くして減量する作用があります。
 5、消除痛痹方
 羌活60g、独活60g、防風50g、桑枝100g、威霊仙60g、麻黄30g、川芎30g、北細辛30g、桂枝60g、防己60g、全当帰30g、鶏血藤100g、蒼朮60g、白朮60g、白芍60g、制川烏60g、炙甘草30g。以上の薬水を30~50分間煮沸して、カスを去り、適温を待って、状況に基づいて、全身あるいは局部の沐浴をします。この方は風・寒・湿が引き起こす、類風湿性関節炎、寒湿の腰腿痛などに適応します。風を去り湿を除き、痹(痛み)を除いて絡脈を通し、寒を散らして止痛する作用があります。
 6、皮膚康寧方
 麻黄50g、連翹60g、赤小豆100g、苦参100g、荊芥30g、防風100g、蝉蛻30g、胡麻仁100g、土茯苓100g、丹皮60g、地膚子60g、蛇床子60g、千里光200g、白蘚皮60g、蒼朮50g、当帰50g、黄柏60g。以上の薬に水を適量加えて、20~35分間煮沸して、液を濾し、かすを去って、水温が適当になったところで、全身入浴をします。この方は蕁麻疹、湿疹、各種の皮膚炎、癬症、皮膚掻痒症に適用し、皮膚の保健に用いることができます。風を去り痒みを止め、熱を下げて湿を除き、病邪に透って外に出し、皮膚を護り養う作用があります。
 7、退熱解表方
  麻黄15g、挂枝15g、荊芥15g、白芷15g、紫蘇15g、連須葱頭3根、生姜10g、柴胡25g、羌活10g、独活10g。以上の薬を水から煎じて10~15分間煮沸させ、顔を薫洗します。あるいは水を煮沸して顔を蒸気浴します。あるいは4倍の薬物を加えて、煎じて湯にし、入浴します。この方は風寒感冒に用います。毛穴を開いて汗を出し、寒を散らして熱をとる作用があります。
 8、補腎壮陽方
 丁香30g、肉桂30g、川椒30g、呉茱萸30g、零陵香30g、路路通50g、淫羊藿100g、蛇床子50g、巴戟天50g、帰尾30g、肉蓯蓉100g、露蜂房30g、韮子50g。以上の薬を水から煎じて20~35分間煮沸して、かすを濾し、坐浴あるいは陰部にかけて洗います。この方は勃起不全、女性の性欲冷淡に適用します。腎を補って陽を盛んにし、陽を暖め寒を散らし、血に活力を与えて絡脈を通じる作用があります。
 9、舒筋活絡方
 秦艽30g、当帰60g、川芎30g、紅花10g、伸筋草50g、絲瓜絡30g、羌活30g、独活30g、牛膝50g、透骨草60g、落得打15g、木瓜30g、補骨脂50g、桂枝30g。以上の薬を30分間水煎し、液を濾してカスを去り、入浴あるいは局部を浸して洗います。この方は四肢の関節の運動障害、脚の麻痺、あるいは関節筋肉の損傷疼痛、活動制限に適応します。疲労過度に用いて入浴すると体力の回復を促進します。特にスポーツマン、肉体労働者の身体の回復に適用します。筋肉をゆるめ血をきれいにし、絡脈を通じて痛みを止め、関節の動きをよくし、疲労を取り除く作用があります。
 10、安枕無憂方
 酸棗仁50g、合歓皮150g、夜交藤200g、珍珠母200g、遠志30g、龍骨200g、牡蛎200g、百合150g、丹参50g、石菖蒲50g、五味子50g、梔子仁30g。以上の薬を30~50分間煮沸し、かすを濾して、入浴します。この方は、不眠、夢が多くて目が覚めやすい、動悸がする、健忘、心神不安、イライラなどの病症に適用します。心の働きを改善して不安をなくし、鎮静安眠、要らぬ雑念を清めイライラを除く作用があります。
 訳者感想:日本でこれらの処方を実行するのは大変なので、発売されている各種の入浴剤から自分に適しているものを捜すのが現実的でしょう。

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