第三章 関節運動類手法



掌握しておくべき四点


 関節を他動的に運動させる手法のことを、推拿学上、運動関節類手法といいます。これは推拿の中で数量は最も多く、技巧性が最も要求され、操作形式は最も複雑的な手法です。臨床では主に滑利関節(関節をスムーズにする)、鬆解粘連(拘縮した関節を緩める)、増強功能(機能改善)、整復脱位(脱臼の整復)、解痙矯形(痙攣を解いて矯正する)、調理気血(気血を調える)ために用います。この類の手法を応用するには、安全、効果、省力(力の節約)、方便(簡便)であることが必要です。この目的を達するためには、先ず以下の四点について把握しておく必要があります。



1.旋揺屈牽法の概念を
はっきり分ける
 人体各部の関節の他動的運動の手法は合計百余種あり、初学者はこの複雑な手法形式に迷いやすいものです。しかし、手法と関節のそれぞれの生物力学的な作用によって分類すれば、その操作形式がいかように変化しようとも、旋、揺、屈、牽の四法に帰納できないものはありません。旋法は関節を左右内外にねじる運動であり;揺法は環を描くように関節を大きく回す運動であり;屈法は関節を屈曲させる運動であり、牽法は関節の一端を固定して、関節の別の一端を牽引するものです。このような概念にしたがってこの四法をはっきりものにして、この類の手法の基本を把握することです。



2.手法選用の根拠は明確に
 他動運動の手法を選用する際には、かならず該当する関節の生理的機能と病変の情況に依拠しなくてはなりません。それぞれの関節の生理的機能は、すべて該当する関節の構造的な特徴が決定します。単純に関節の正常な活動範囲を理解しただけでは不十分です。さらに関節面の構造、運動軸およびそれに附着する筋肉と靭帯の大体の解剖を理解する必要があります。そうでないと関節の生理的な機能を全面的に理解することはできません。ただ、臨床上、治療所で操作する関節には、異なる程度の病変と機能障害があります。たとえばリウマチ性関節炎および五十肩など。もしその関節の病理変化と機能情況を診ないで、その関節の正常な活動範囲を求めておさえると、めくらめっぽうで粗暴に他動運動を応用することになり、ただ関節の機能を改善できないばかりではなく、はなはだ由々しい結果を招くことになります。



3.操作原則に従う
  ①関節の筋肉が緊張しているものあるいは機能障害のあるものは、先ず一般手法を用いて筋肉を弛緩させる。
  ②治療効果の似ている手法の中から、安全、省力、簡便な手法を選択する。
  ③旋転して整復したりあるいは劇痛をともなう手法では、操作には熟練と正確さが要求され、その不備を的確に攻めてこそうまい具合にいく。
  ④適当な運動の幅:機能障害があるものでは、最大の幅は患者の自動運動の幅から5~10°の超過にとどめるべきである(感染あるいは器質性病変のあるものには禁忌)。正常関節では、一般に生理な幅を超過してはならない。超過しなくてはならない時には、四肢の関節では5°前後なら超えてもよい。頚腰部では10°前後超えてもよい(体操雑技および練功に関係する人は例外)。その中で、頚腰部の旋転法では方向角度をよく選び、旋転する交点はできるだけ正確にしてさらに響声を伴わなくてはならない。牽引法では適当な牽引力、方向角度と体位をよく選ばなくてはならない。揺法と屈法では関節の保護に注意しなくてはならない。
  ⑤操作回数:旋法は1~3回。揺屈牽法は病情に基づいて斟酌してきめればよいが、各分類手法中に具体的な規定があればそれに従う。



4.応用力学原理
  一切の推拿手法(気功推拿は例外)はすべて患者の体表に“力”を作用させるものです。従って力学的な観点からみれば、推拿手法は各種の機械力の間の相互作用につきます。関節の他動運動もまた例外ではありません。とりわけ、力学中のテコの原理とは切っても切れない関係にあり、そのなかでも省力用のテコの応用が最も多く、したがってこれが主要な研究対象になります。速度用のテコは速度あるいは運動幅を増加させる必要がある場合に、そして抵抗力があるが克服が困難でない場合にはじめて応用を考慮します。
 関節の他動運動というのはこれは患者の立場から見てのことです、推拿医師の立場からみれば自動運動ということになります。というわけで、手法において患者の体表への着力点(作用点)、これは患者の他動運動におけるテコの力点(力を加える点)であり、またこれは推拿医師がテコを動かす際の阻力点(抵抗点)となります。したがって、手法の力学的原理を研究するためには、術者自身が各種の手法動作を研究する必要があるばかりではなく、とりわけ手法が患者の肢体上に引き起こす各種の他動運動を研究する必要があります。患者の側にあっては、他動運動をする関節が確定した後、関節の中心のテコの支点およびのその他動運動をする肢体の阻力点(抵抗点)を改変してはいけません、ただテコの力点(力を加える点)は術者によって改変されるべきで、力点(力を加える点)とテコの支点との距離が遠くなればなるほど、すなわちテコの力点と支点間の距離が長くなればなるほど省力できるわけです。術者の側にあっては、力点と支点はともに術者自身の身体にあるわけですから、その位置を変えるのは大変難しく、したがってテコの力点と支点の距離を長くして省力しようとしても結局は徒労に終わります。ただ、阻力点(抵抗点)をテコの支点に近づけて、阻力点(抵抗点)とテコの支点との距離を短くしてはじめて省力の方法の効果が生まれます。たとえば、術者が身体を患者の治療点に近づけて操作することが、阻力点(抵抗点)とテコの支点との距離を短くする施術の一種になります。
 術者および患者自身の重力を利用して省力することも見落としてはなりません。たとえば跴蹺法(足で踏む法)および手法操作の時に身体を前傾するのは、術者自身の体重を利用することですし、胸囲を吊り下げる牽引法などは、患者自身の体重を利用することです。


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