第三章 関節運動類手法



第一節 頚椎関節の運動手法


 頚部の運動は頚椎の多くの関節の運動が積み重なったものです。ただし、頚椎で運動の最も激しい部分は頚椎の上端と下端です。頭の小幅な運動は頚椎上部の環軸関節と環椎後頭関節の活動が主です。頚の大幅な運動は頚椎下部の第5、6、7関節の活動が主です。
 頚部の正常な活動範囲:前方屈曲と後方伸展各35°、左右側方屈曲各45°、左右回旋各60°。頚を環のようにまわす活動は前方屈曲、側方屈曲、後方伸展、左右回旋の連合動作です、頚を回す幅の大小はこの連合活動の度合いによって決まります。



一、頚椎回旋法


1.頚椎緩慢回旋法
 患者坐位、右側に向けて回旋して倒す(以下同)。
 術者は患者の右後方に立ち、右手で患者の下あごの左側を支え、左手で頭頂の右側をおさえ、先ず緩慢に頭と頚を数回まわして、筋肉が弛緩するのを待ってのち、再び頭と頚を緩慢に右後方に転向します。同時に患者に頼んでできるだけ右後方を向いてその方向を眺めてもらいます。緩やかに回旋して最大限度に達するのを待って、術者は両手に突然力を加えて頭と頚をさらに右後方に向かって継続して5°前後回旋させます。矯正音がするのが普通ですが、もし音がしなかったからといって強いて求める必要はありません。一般には、一回で止めます。重ねて何回もするのはよくありません。もし左側に回旋する場合は、体位は反対で方法は同じです。もし下部頚椎を回旋したいときには、頚部の前屈の度合いを適当に大きくして、頭頂をおさえている手の力を主に用います。上部の頚椎を回旋するにはこの反対にします。この手法が終わったあと、患者がただちに頚部がほぐれてよく動くようになったと感じたら、手法操作が成功したということです。頚椎病と寝違いに常用します。

  附 頚椎快速回旋法
 頚椎回旋法の操作体位のとおりで、患者の頭頚部をまわしている途中で、頚部の筋肉が弛緩したと感じた時に、患者の不意をついて患者の頭頚部を突然右後方に向けてあるいは左後方に向けて快速な回旋を一回行います。回旋に用いる力の大小と幅は、術者の手の感覚で捉えた回旋に対する抵抗力と頚部のその時の回旋位置に基づくものです。実際の経験にもとづいてそのときそのときに掌握していくものです。経験が不足している初学者は、この方法を用いるのは避けるかあるいは慎重に用いるべきです。



2.棘突起をおさえる頚椎回旋法
 患者坐位、術者は患者の右後方に立つ。
 左手母指で患者の頚部の右に傾いている棘突起あるいは頚椎の傍らの圧痛点を按圧します。右手は患者のあごの下からはさみ込んで左の外後頭隆起までもってきます。そして、手と手くびと前腕とで患者の頭を抱えて、ゆっくりと上にあげていき頭と頚を右側にむけて回旋させ、回旋していって術者の左手母指が抵抗力が大きくなったと感受するのを待って、突然両手をそれぞれ反対に向けて動かし、頭と頚がそのまま続いて右後方に向いて5°前後回旋するようにします。同時に術者の左手母指の下では棘突起が軽微に移動するのが感じられ、そして矯正音がします。これで手法は終わりです。もし左側に向けて回旋するときには、体位は反対で、方法は同じです。
 この法は頚椎関節の亜脱臼、頚椎の順位不良あるいは生理的弯曲を消失した頚椎病に適用します。



3.あごを鎖骨につける頚椎回旋法
 患者坐位、術者は患者の右後方にたつ。
 左手で患者の頭頂の左側をおさえ、右手で下あごの左側を支え、頭をやや仰向かせて、下あごを支えている手を主に動かして頭と頚を小幅に数回まわまし、筋肉の弛緩が感じられたときに、さらに頭頂をおさえている手を主に使って、突然患者の頭と頚を右前下方に向けて回旋させて、下あごが右鎖骨前縁の中部に接触するようにします。常に矯正音を伴います。もし左側に向けて回旋するならば、体位は反対で、方法は同じです。この方法は寝違いに適用します。



4.後方伸展頚椎回旋法
 患者坐位、術者は患者の後方に立つ。
 右の手掌で患者の下あごを支えもち、頭と頚を適当な角度に後方伸展させ、同時に左手の中指(あるいは母指)で特定の棘突起の頂をおさえるかあるいは偏位している棘突起の左(右)側を右(左)に向けて推し、その母指(四指)で右(左)の外後頭隆起を支えおさえて左(右)に向けてカを加えます。両手で先ず頭と頚を数秒間上に持ち上げ、そこで頭と頚を緩慢に右側に向けて回旋し、回旋していって両手の抵抗力が大きくなるのを待って、そして突然患者の頭と頚を右後方に向けて引き続き5°前後回旋させます。もし矯正音を伴って、同時に尖端をおさえている棘突起が指の下で軽微に移動するのが感じられたら、手法は成功です。もし矯正音がしなくても、強いて求めないことです。もし左側に向けて回旋するなら、体位は反対で、方法は同じです。この方法は神経根型の頚椎病、寝違い、頚項の強ばり等に適応します。



5.仰臥位頚椎回旋法
 患者仰臥、枕はしない。
 術者は患者の枕元に座り、左手は示指あるいは中指で患者の後頚部で右に偏っている棘突起の右傍あるいは特定の棘突起の右傍をおさえ、そして左に向けて引っ張るように力を入れ、母指は左側にあって対抗するように力を入れます。もし頚椎棘突起が左に向いて偏っているなら、術者は左手母指で歪みのある棘突起の左傍あるいは特定の棘突起の左傍をおさえて、右下方に向けて推す様に力を入れますが、同じ手の示指中指は右側にあって対抗するように力を入れます。そしてこれと同時に、右手は患者の左の頬をおさえ、頭と頚を右方に向けてすばやく一回回旋して、右の頬を床面につけます。常に矯正音および歪みのある棘突起の軽微な移動感を伴います。もし左側に向けて回旋するなら、体位は反対で、方法は同じです。この方法は頚椎の小関節の変位、神経根型の頚椎病、寝違い等に適用します。


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