第四章 部位別の推拿手法


第二節 胸腹部の推拿手法


一、胸部の推拿手法


1.掌抹胸中綫
 (胸部正中線軽擦)
 〔部位〕 天突と中脘を結んだ線上。
 〔操作方法〕 患者は仰臥位で、術者は患者の右側に位置して、片手の掌面を患者の胸骨柄の上部に横に置いて、母指球、小指球、手根部を主に使って、上から下へと反復して輪状軽擦と軽擦法を各50~100回。
 〔適応症〕 胸痛、胸悶(胸苦しい)、哮喘(喘息)、呃逆(しゃっくり)、嘔吐、腹脹(お腹がはる)。



2.疏胸法
 (胸を緩める)
 〔部位〕 天突の下から鳩尾を経て右肋骨弓の下縁。
 〔操作方法〕 患者は仰臥位で、術者は患者の右側に座り、右手の手掌を軽く患者の胸骨部におき、四指の先端は天突穴の下方に向け、そして手掌で胸の正中線に沿って下に向けて軽快に左右に揺らしながら、右肋骨弓の下縁に至り、改めて弧を描く軽擦法にして、勢いは先の蛇行の通りとします。左手は右手の通路にぴったりとくっつけ、四指の指腹と手掌の前部で軽擦します。両手の操作を一回と計算して、反復100~200回、頻度は60~80回/分。
 〔適応症〕 胸痛、胸悶(胸苦しい)、腹脹(お腹がはる)、肝区隠病(右季肋部の鈍痛)、呃逆(しゃっくり)、噯気(げっぷ)、哮喘(喘息)、冠心病(虚血性心疾患)。



3.推摩前胸法
 (前胸部輪状軽擦)
 〔部位〕 前胸部。
 〔操作方法〕 患者は仰臥位あるいは坐位、術者は患者の後方に位置して、両手の手掌で、指端は腹部の方に向けて、両母指は胸骨柄のところに並べて、まず直線的に下に向けて軽擦し、剣状突起に至った時に両手を分けて両辺に向けて軽擦していき、両手の小指が腋窩の前縁に達した時に、側胸に沿って元の位置に戻り、また第二回の輪状軽擦を行います。。このようにして反復30~50回。
〔適応症〕 胸痛、咳嗽、胸悶(胸苦しい)、哮喘(喘息)、消化不良、肋間神経痛、胸部挫傷(うちみ)。



4.指圧肋間法
 〔部位〕 胸骨傍線、鎖骨中線および腋窩前線上の各肋間。
 〔操作方法〕 患者は仰臥位あるいは坐位、術者は患者の側方あるいは前方に位置して、両母指の指腹で、胸部両側の特定の線を上から下へ、内から外へと同時に圧迫揉捏します。反復2~3遍。
 〔適応症〕 胸悶(胸苦しい)、胸痛、哮喘(喘息)、咳嗽、腹痛、腹脹(お腹がはる)、肋間神経痛、消化不良、頭痛、歯痛。



5.疏理肋間
(肋間を緩める)
 〔部位〕 前胸部の各肋間。
 〔操作方法〕 患者は仰臥位で、術者は患者の右側に位置して、両手の五指をやや屈して開き、十指の指腹で、ただし母指を主に用いて、各指をそれぞれ順番に一個の肋間に置きます。手法の順路は母指の操作を基準として、第一、二肋間際から開始して順次下に向かって左右に軽擦していき、第十一、十二肋間至って止めます。左右同時に操作して、反復2~3遍。軽擦するときには、主に母指を肋骨の下縁に接触させます。もし皮下に硬結があったり、触ったら痛みを感じたりあるいはだるくて脹れた感じが顕著な場合には、軽擦や圧迫揉捏の回数を増やすと宜しいです。
 〔適応症〕 哮喘(喘息)、胸痛、咳嗽、肋間神経痛、岔気(胸脇痛)、冠心病(虚血性心疾患)、消化不良。



 6.指背拉胸法
 (前胸部指背軽擦)
 〔部位〕 前胸部、主にその両側。
 〔操作方法〕 患者は仰臥位で、術者は患者の側方あるいは頭の後に位置して、両手の四指は自然に屈曲し、指背の近位指節関節で、上から下へ、内から外へ、両手を交替に引っぱります。反復5~10遍。
 〔適応症〕 胸痛、胸悶(胸苦しい)、咳嗽、呼吸不暢(息苦しい)、肋間神経痛、呃逆(しゃっくり)、嘔吐。



7.拍胸法
 (前胸部軽打法)
 〔部位〕 前胸部、主にその両側。
 〔操作方法〕 患者は仰臥位であるいは坐位、術者は患者の側方あるいは後方に位置して、両手の全手掌で叩打、患者の胸部の両側を上下に往復して軽く叩打5~10遍。操作時には手首には力を入れず、手と胸部の距離は15センチ以内とします。頻度は為260~300回/分。
 〔適応症〕 胸悶(胸苦しい)、咳嗽、痰吐不利(痰の切れが悪い)、哮喘(喘息)、呃逆(しゃっくり)、消化不良。



8.横擦胸三区
 (前胸部三区軽擦)
 〔部位〕 前胸部で華蓋、膻中、鳩尾を通過する左右方向の三条の平行帯。
 〔操作方法〕 患者は仰臥位であるいは坐位。術者は患者の側方に位置して、片手の手掌で軽擦法、胸の三区を上から下へとそれぞれ軽擦30~60回。力は均等に使い、皮膚が湿潤あるいはあらい者にはオイルを用います。成年女性の患者は、膻中線の部分は省略します。
 〔適応症〕 感冒咳嗽、肺虚咳嗽(弱弱しい咳)、哮喘(喘息)、胸痛、胸悶(胸苦しい)、岔気(胸脇痛)、胸部挫傷(うちみ)。



9.双推脇助区
 (両脇肋部軽擦)
 〔部位〕 両腋下から前下方に向かって上腹部で交叉する両帯状区。
 〔操作方法〕 患者は坐位で、両手を腰に当てるかあるいは後頭部を抱えます。術者は患者の後方に立ち、両手の手掌で軽擦法、上から下へ、左右同時に操作30~50回。肋間神経痛の患者には、患側に20~30回追加して軽擦。
 〔適応症〕 岔気(胸脇痛)、肋間神経痛、胸部挫傷(うちみ)、呃逆(しゃっくり)、腹脹(お腹がはる)、咳嗽、胸悶(胸苦しい)、高血圧、失眠(不眠)。



10.肝区振推法
 (肝臓区軽擦掌振)
 〔部位〕 胸部右側、肝臓投影部。
 〔操作方法〕 患者は左側を下にして横臥位、右側の上肢と下肢は屈曲位。術者は患者の背後に位置して、片手の手掌で軽擦法に掌振(手掌振せん法)を配合します。、患者の右胸背側辺りから前に向かって軽擦掌振していき、まっすぐ右上腹に至って止め、反復30~50回。軽擦の動作は緩慢に、震動は連綿と不断に。
 〔適応症〕 胆石症、慢性胆嚢炎、胆道蛔虫症、慢性肝炎、右肋間神経痛および岔気(胸脇痛)。



11.側掌振膻中
(膻中穴振動)
 〔部位〕 前胸部正中線の胸骨体の中部。
 〔操作方法〕 患者は仰臥位で、術者は患者の右側に位置して右手の小指球で、腕関節を高頻度に10~20秒間揺るがし、一呼吸の間に完了します。重複3回。この法は腕関節を高速に揺り動かして振動波を患者の胸部に伝導するものです。
 〔適応症〕 胸悶(胸苦しい)、喘咳、痰吐不利(痰の切れが悪い)、呃逆(しゃっくり)、噯気(げっぷ)。



12.掌抹腋下
 (腋窩部軽擦)
 〔部位〕 両側の腋窩の前線と腋窩の後線の間の腋下部、上腕の近位端内側面を含みます。
 〔操作方法〕
A.. 患者は健側を下にして横臥位、患側の手は後頭を抱えるかあるいは手背を額に当てておきます。術者は患者前方あるいは後方に立って、片手で患側の上腕の遠位端をおさえ、別の手の手掌で、腋窩部を上から下へ反復軽擦30~50回。

B.患者坐位、術者は患者前方あるいは後方、片手の手掌で上腕の遠位端の内側を挙げて支え、別の手の手掌で在下部を上から下へと反復軽擦30~50回。

〔適応症〕 岔気(胸脇痛)、胸痛、胸悶(胸苦しい)、哮喘(喘息)、咳嗽、失眠(不眠)、高血圧、冠心病(虚血性心疾患)。



13.双托肋弓
 
 (肋骨弓を挙げる)
 〔部位〕 両肋骨弓の下縁。
 〔操作方法〕 患者は坐るかあるいは仰臥位。術者は患者の後方あるいは側方に位置して、両手掌でそれぞれ患者の両肋骨弓の下縁を支え挙げます。患者の吸気時に上に挙げ、呼気時に緩め、患者の吸気を助けます。もし呼気時に上に挙げ、吸気時に緩めれば、患者の呼気を助けることができます。反復10~15回。
 〔適応症〕 肺気腫、呼吸不暢(息苦しい)、呼吸困難、岔気(胸脇痛)、胸悶(胸苦しい)、呃逆(しゃっくり)。


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