第二章 基本手法



 基本手法は推拿医師の手法の基本的な技術であり、主要な作用は軟部組織に対するもので、摩擦(軽擦)、揉動(揉捏)、擠圧(圧迫)、提拿(把握)、叩撃(拍打)及運気推拿(振せん)など六種類の手法を含みます。




第1節 摩擦類手法(軽擦法)


 摩擦類手法(軽擦法)の共通の特徴点は:操作時に皮膚に吸着せず、したがって皮膚に対してはっきり摩擦を起こし、筋肉に対しては一定の圧力と推動があるが、その作用力は比較的小さく、手法は柔軟温和で、消腫去瘀(オ)(腫れを消して瘀(オ)血を去る)、温陽散寒(陽を温め、寒を散らす)という功用があり、全身各部に適用するものです。操作時には常に治療局部に少しばかりのオイル、パウダー或いは特製の薬液を塗って介在物質として、皮膚を保護するとともに治療効果を強化します。この類の手法は推法(軽擦法)、擦法、摩法(輪状軽擦)、抹法を包括します。



一、推法(軽擦法)
 およそ体表にあって直線的に反復して同一方向に運行する手法を、推法(軽擦法)といいます。推法(軽擦法)は常に肢体のリンパ管、血管、筋肉或いは経絡の走向に沿って運行します。一般の情況下では、向心性に推すものをとし、離心性に推すものをとします。
 常用手法には指推(母指軽擦)、掌推(手掌軽擦)、拳推(指顆軽擦)、前腕推と刮(カツ)法などがあります(図1)。但し治療部位の大小、広狭及び筋肉の厚薄など異なる解剖的な特徴にもとづいて、それに適応した作用点の推法(軽擦法)を選んで活用します。
 刮(カツ)法はスベスベした厚手のお碗の口、杯の口、スプーン或いは銅銭などを用いて、治療する部位にはオイルを塗って、推法(軽擦法)の要領によって、脊柱の両旁或いはその他の特定部位を上から下へと皮膚を削り、充血してきたら度とします。
 推法(軽擦法)は舒筋活絡(筋肉の緊張を緩め、経絡の流れをよくする)、解表散寒(寒さを散らす)、消腫止痛(腫れを消して痛みを止める)という作用をもっています。


訳注:日本あん摩での補瀉
部位 経絡 手技 作用
上肢 陰経 マッサージ
あんま
陽経 マッサージ
あんま
下肢 陰経 マッサージ
あんま
陽経 マッサージ
あんま



二、擦法(往復軽擦法)
 およそ体表にあって直線的に往復して運行する手法を、擦法といいます。この法は往復運動の力は均一にして、圧力は適当に、頻度は一般に160~200回/分。もし圧力が過重で、速度が速すぎると、皮膚を擦傷しやすいばかりではなく、深部への熱の伝導も劣ります。
 擦法を使用したあと、その局部に更にその他の手法で摩擦するのはよくないです。皮膚の損傷は避けなくてはなりません。
 擦法は掌擦(手掌往復軽擦)と指擦(指復往復軽擦)に分けます。掌擦(手掌往復軽擦)はさらに掌根(手根)、大魚際(母指球)、小魚際(小指球)と平掌(全手掌)の四種の擦法に分けます(図2)。部位の特徴と病情の違いによって、選択して活用します。
 擦法は比較的大きな熱量を生みますから温補散寒(温めて寒を散らす)、去瘀(オ)止痛(瘀(オ)血を去って止痛する)作用があります。



三、摩法(輪状軽擦法)
  およそ体表にあって曲線的に反復運行する手法を、摩法(輪状軽擦)といいます。この法は皮膚上にあって円形或いはらせん形に運行し、皮膚には吸着しません(図3)。手法は柔かく緩やかで、刺激は微弱です。
 掌摩(手掌輪状軽擦)と指摩(指腹輪状軽擦)の両種に分けます。全身各部に適用しますが、胸腹と関節部位に最も常用します。
 腹部に用いれば、通便止瀉(下痢止め)、健脾(胃腸を健やかにする)、消食(消化)などの作用があり、胸部に用いれば寛胸理気(胸を広げて気をととのえる)、疏肝解郁(気鬱を解く)などの作用があり、関節に用いると、消腫止痛(腫れを消して止痛する)、去風勝湿(風湿を取り除く)などの作用があります。



四、抹法(左右同時軽擦法)
 およそ手法の運行線路と術者の操作手腕は基本としては垂直をなし、反復して同一方向に向かって直線的に運行するものを、抹法(左右同時軽擦)といいます。中心から左右に抹(同時に軽擦)するものといい、左右から中心に向かって抹(同時に軽擦)するものをといいます(図4)。
 抹法(左右同時軽擦)と推法(軽擦法)は力学的な作用は基本的には同じです、いずれも直線形式をもって反復して同一方向に運行します、但し抹法はほとんど頭面部と胸腹に用い、推法(軽擦法)は四肢と背部に多く用います。抹法(左右同時軽擦)はリンパ、血管、筋肉そして経絡の走向には拘りませんが、推法(軽擦法)は常にこのことを強調します。
 抹法(左右同時軽擦)は掌抹(手掌による左右同時軽擦)と指抹(指腹による左右同時軽擦)の両種に分けます。
 理気活血(気をととのえ血をきれいにする)、調和陰陽(陰陽を調和する)作用があります。

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