第三章 関節運動類手法


第八節 恥骨結合矯正法


 恥骨結合は両側の恥骨の結合面が軟骨によって結合されています。軟骨の中間には骨腔があり、恥骨結合を弾性の富んだものにしています。生理的な原因により、女性の恥骨結合は広くて短く、男性は狭くて長くなっています。正常な成人の恥骨結合は230キログラムの張力に耐えることができるので、単純な外力では恥骨結合が分離するということはありません。恥骨結合分離の原因には二種あります。一つは女性の妊娠時で、とりわけ分娩前二週間になると、ホルモンが分泌されて、恥骨結合の軟骨と靭帯が緩んできて、結合部に軽い分離が起こり、胎児を分娩しやすくなりますが、正常な場合には、分娩後すぐに順次正常に回復します。二つは分娩時に胎児の頭が大くなっていたあるいは難産あるいは姿勢が正しくなくて力の使い方が適切でなかったといったことが原因で、恥骨結合部が比較的大きな圧力を受けて開いてしまうことです。後者は恥骨結合分離症の主要な原因です。この病の発病率は産婦人の約二千分の一です。
 もし分娩後、恥骨結合部の疼痛・圧痛が顕著である、股関節の外転や外旋が制限を受ける、活動時には疼痛が激しくなる、立って片足を持ち上げるのが困難である、歩くときに力が入らない、階段を上り下りすると疼痛が増す、ひどい者は歩くのに杖が必要になる、甚だしいときにはベッドを降りれなくなる、症状が2ヶ月以上続く、]線で恥骨結合間の距離が6ミリメートル以上あるものは、恥骨結合分離症とします。以下の手法を選用して治療します。



1.拍打牽引法
 患者は仰臥して、両膝を少し屈して外転し、両手を重ねて恥骨結合の上をおさえます。、助手は患者の足の後ろに立って、両手でそれぞれ患者の両足首を握ります。術者は患者の側方に位置して、「1,2,3」と掛け声をした時に、助手は勢いよく両下肢を引っぱって両腿をまっすぐに伸ばしてまとめて並べます、同時に術者は片方の手の空掌で恥骨結合をおさえている患者の手の上を拍打します。このようにして3回繰り返します。



2.骨盤を固定して脚を牽引
  患者はベッドの上で上半身を起こして、左の手掌で恥骨結合をおさえます。助手甲は患者の背後にいて患者が後ろに倒れるのを防ぎます。助手乙は患者の両方の足首を握って、両下肢を屈曲した後外転・外旋位を保持します。術者は患者の左側にいて、右の臀部と右手とで患者の臀部を両方からおさえ、左手では患者の右手首を握ります。術者が「1、2、3」と掛け声をしたときに、助手乙は勢いよく両足首を引っぱり、両下肢を内転・内旋させてまっすぐに相い並べます。同時に術者は骨盤を抱えるようにおしておいて、患者の右手を引っぱって恥骨結合部の患者の左手を拍打します。もう1回くりかえします。



 3.仙腸関節矯正法
 A.股関節屈曲する矯正法(図167)
 患者は仰臥して、健側の脚は伸ばし患側の脚は曲げて、しかも両脚は平行位にしておきます。術者は患者の側方に立って、両手で患側の膝関節を抱えて対側の胸腰方向に向けて緩やかに圧していきますあるいは斜搬します。操作しているときにもし仙腸関節の軽微な矯正音が聞こえれば、手法は成功です。2〜3回繰り返しても宜しい。適応は仙腸関節の前方亜脱臼、すなわち検査すると上後腸骨棘が健側に較べて高くなっていてしかも圧痛があるものです。


 B.仙腸関節の捻転法
 操作方法は側臥位腰椎回旋法(図69)と基本は同じです。但し術者は手で患者の腰部をおさえるかわりに、掌根で患側の上後腸骨棘を按圧するようにします。もし斜搬しているときに仙腸関節の軽微な矯正音が聞こえたら手法は成功です。2〜3回繰り返しても宜しい。適応は仙腸関節の後方亜脱臼、即ち検査して上後腸骨棘が健側に較べて下降していて圧痛を伴うものです。


 考察:下肢を外転・外旋したときには、恥骨結合の間隔は広がりを増します、そして内転・内旋したときにはこの間隔は狭くなります。これが、推拿で両下肢を内転・内旋する方法を採用すると恥骨結合の矯正に成功する根拠の一つです。また、恥骨は骨盤の構成部分であり、産後の恥骨結合分離症では、仙腸関節の亜脱臼が多く発生していることは推拿の臨床経験で証明済みのことであり、仙腸関節の亜脱臼が矯正されると、恥骨結合の分離もそれに随って矯正されます。


目次一覧表

HOME BACK