いわゆる複合的な手法とは、二種類以上の手法を一箇所あるいは二個所以上のツボに対して同時に操作するか、あるいは一種の手法を二個以上のツボにまたがって操作するものをさして言います。これらの手法の名称はすべて昔の人がその手法の有する特色と治療効果に基づいて名づけ、今日に至ったものですが、この手法集では以下のように整理しました。 |
〔操作方法〕 術者は右手で拿患児の中指・環指の先端を把握して、左手の母指・示指・中指の三指で陰穴あるいは陽穴のいずれからか先に開始して、上に向って断続的に按捏(おさえつまむ)して曲池穴に至って止めます、各3~5遍。寒症の場合には陽穴側を重按(重くおさえる)、熱症の場合は陰穴側を重按(重くおさえる)します。最後に左手で陰穴、陽穴を捏拿(ゆびで把握揉捏)し、右手で患児の示指・環指を拿(把握)して揺動5~10回。 〔主治〕 この方法の性能は温和で、主治は寒熱不調です。 〔訳注〕 手掌を上にして、橈側は陽、尺側は陰です。 |
〔操作方法〕 術者の左手で患児の揺るがす方の肘を支え、右手の母指・示指・中指三指で患児の示指と小指を拿(把握)して、下に引っぱるように揺り動かします、10~20回。 〔主治〕 この方法は開通閉結(小便大便が出ないのを開通)しますから、二便閉結を主治します。 |
〔操作方法〕 術者は左手で患児の揺るがす方の肘を握り、右手で患児の小指を拿(把握)して揺動(振せん)10~20回。 〔主治〕 この方法も性質は開閉結(小便大便が出ないのを開通)することですから、二便不爽(小便大便がすっきりでない)を主治します。 |
〔操作方法〕 術者は右手で患児の示指・中指・環指の三指を拿(把握)し、左手では母指をおもに使い、四指は対側で助けとし、軽快に揉捏法を施します、総指屈筋から肘まで往復操作5~10遍、最後に肘を握っておいて、右手で患児の三指をもって揺動(振せん)3~5回。 〔主治〕 この方法は開胸(胸を楽にする)の効能がありますから、発熱を主治します。 |
〔操作方法〕 術者は両手の四指で患児の手背の両側を支え、母指で掌面の橈側と尺側を按(圧迫)します、さらに橈側をおさえている母指で大魚際(母指球)を推(軽擦)、揉捏します、各30~50回。 〔主治〕 この方法の性質は温で、発熱、吐瀉(吐き下し)を主治します。 |
〔操作方法〕 術者は両手の示指・中指両指で患児の両耳を挟んで上に向けて3~5回引っぱたり、さらに母指で眉心、太陽、聴会、牙関、人中、承漿などのツボを按掐(ゆび針)します。1~2遍しても宜しいです。 〔主治〕 この方法は肺経を温めますから、風寒咳嗽(風や寒さによる咳)を主治します。 |
〔操作方法〕 A: 術者は両手で患児の手掌の両側を握り、両母指で陰、陽穴(橈側、尺側のツボ)を5~10回圧迫揉捏した後、改めて片手で患児の肘を握り、他方の手で患児の手首を握って下に向けて3~5回振せんし、さらに外上方に向けて廻すように揺るがします10~20回(図386)。 B: 術者は両手の示指・中指で患児の手掌の両側を挟んでおいて両母指で掐精寧、掐威霊した後、手首と前腕を上下に抖動(振せん)します、20~30回。 〔主治〕 A法は性質が温なので、主に寒症を治療します。B法は主に驚風(ひきつけ)、昏迷(意識朦朧)、喘咳(喘息)、腹脹(お腹が脹る)などを治療します。 |
〔操作方法〕 術者は左手の母指、示指を対にして患児の手の内労宮・外労宮穴を(擠掐)指頭揉捏します。同時に、右手の母指あるいは示指で患児の中指心経穴を3~5回掐(ゆび針)した後、さらに中指を捏ねて環のように揺るがします、5~10回。 〔主治〕 この方法は和気生血(気を和ませて血をつくる)しますから、驚症(ひきつけ、痙攣を伴った失神)を治療します。 |
〔操作方法〕 A: 術者は両手の母指・示指・中指の三指で、患児の手首の背側の尺骨と橈骨の小突起のところの皮膚を同時に捏起(捏ねるように持ち上げる)して、引っぱったり放したりする動作を10~20回。 (図388) B: 術者は両手の母指・示指で患児の両耳の尖端を捏ねながら上にあげます3~5回、さらに両耳垂を捏ねながら下に引っぱります3~5回。 〔主治〕 A法は性質は温で、化痰動気(痰をなくして気を動かす)、健脾胃(胃腸を健やかにする)の効能がありますから、食積(食べもののもたれ)、寒痰(寒さによる体液障害)、虐疾(マラリア性の熱病)を主治します。B法には定驚(ひきつけをなおす)、去寒の作用がありますから、驚風(ひきつけ)、煩躁(いらいらしておちつきがない)、感冒を主治します。 |
〔操作方法〕 A: 術者は左手で患児の手指の2本を握って固定し、右手の母指で運内労宮を10~20回施した後に、改めて示指・中指による指端叩打法を、総指屈筋から開始して、河水穴(前腕屈側正中線)に沿って挙げたり降ろしたりと叩打しながら洪池(尺澤)に至って止めます、反復1~3遍、これを打馬過河(図389)といいます。 B: 冷たい水を手首横紋の総指屈筋のところにたらして、右手の示指・中指で叩打しながら、冷気を吹きかけ、そうして直っすぐ洪池(尺澤)に至って止めます、反復3~5遍、これを引水上天河と言います。 C: 手指をちょっと冷水に浸して、洪池(尺澤)から河水(前腕屈側正中線)を循って軽擦して内労宮に至ります、30~50回、これを取天河水と言います。 D: 冷水を内労宮に点滴して、中指で引水上天河を施し、同時に口で息を吹きかけて水を上行させ、水が無くなるまで行います、反復5~10遍、これを飛金走気と言います。 〔主治〕 A法は通経行気(経絡の通りをよくして気をめぐらす)作用があり、性質は温涼なので、悪寒発熱、麻木(麻痺、しびれ)を主治します。B法の性質は涼なので、発熱を主治します。C法の性質は大涼なので、熱病を主治します。D法の性質は温、瀉火清熱の作用がありますので、失音(失声)、膨脹を主治します。 |
〔操作方法〕 A:術者は左手で患児の四指を握って固定し、右手の母指先端の橈側で、小指辺りからはじめて、小魚際(小指球)、魚際交(母指球と小指球の交点)を経て、掌心の内労宮に向かうコの字を作って推(軽擦)します、反復30~50回(図390)。 B:冷水を児の掌心に滴入して、手指を児の掌心において旋推(回旋軽擦)、軽擦しては冷気を吹きつけて、30~50回。 〔主治〕 この方法の性能は大涼で、発熱、驚惕不安(驚恐不安)を主治します。 |
〔操作方法〕 術者は左手で患児の頭部を固定し右手の示指・中指の二指の先端で両鼻孔の下方を軽揉(軽く揉む)、30~50回。 〔主治〕 この方法の性能は発汗ですから、発熱無汗、鼻閉を主治します。 |
〔操作方法〕 先ず内労宮、総指屈筋を3~5回掐(ゆび針、指頭揉捏)します。そして分手陰陽(尺側橈側に分けるように軽擦)10~20回、その後、両手の母指と示指で総指屈筋の両傍の皮膚を捏ねるように持ち上げ、捏ねては内関穴の両傍へ向かって軽擦移動します、反復5~10遍。最後に内八卦穴の坎宮と離宮にゆび針を各3~5回して終わりとします。 〔主治〕 この方法の性質は大熱ですから、発熱無汗を主治します。 |
〔操作方法〕 術者は片手の母指・示指で患児の母指の中手骨の部を固定して、別の手の母指端で患児の母指の脾経穴をゆび針しまた母指を振せんします、10~30回。 〔主治〕 この方法には健脾消食(胃腸を健やかにして消化を助ける)効能がありますから、主治は食積痞塊(食べものがつかえたかたまり)です。 |
〔操作方法〕 術者は母指先端の橈側で、患児の母指橈側縁から開始して、手根の縁に沿って、小指の尺側縁に向かうかあるいは内八卦の坎宮穴に運行するものを、運土入水と言います。もし、逆の方向に運行すれば、運水入土と言います。各50~100回。 〔主治〕 運土入水には滋腎(腎の力をつける)作用があり、小便赤澀(小便が赤くて出にくい)、頻数(回数が多すぎる)を主治します。運水入土には健脾助運(胃腸を健やかにして消化を助ける)、潤燥通便(かわいた便を潤して便通をよくする)作用がありますから、腹瀉(下痢)、二便閉結(小便大便不通)を主治します。 |
〔操作方法〕 両手の母指・示指で、患児の両耳垂を30~50回揉捏し、その後、両手で患児の頭部の両側を抱えて、順逆の時針方向に回旋各5~10回、あるいは左右に側屈各5~10回。 〔主治〕 この方法は鎮驚安神(驚きやすいのを安心させる)、調和気血(気血を調和させる)作用がありますから、主治は驚症です。 |