第五章 小児の推拿手法


第二節 常用手法とツボ


一、頭顔面部の手法



1.開天門(推攅竹)
(前額軽擦)
 〔位置〕 眉心(両眉毛の中心)から前髪際至るまで。
 〔手法〕 両母指で下から上へと交替に軽擦、あるいは片手の母指で下から上へと軽擦、反復30〜50回。
 〔主治〕 発熱、頭痛、感冒、精神萎靡(不振)、驚恐不安。
 〔臨床応用〕 開天門の効能:疏風解表(かぜの発熱頭痛を取る)、開竅醍脳(頭のもやもやを取りすっきりさせる)、鎮静安神(精神鎮静)。外感発熱(かぜの発熱)、頭痛などの症に関係して常用し、多く推坎宮揉太陽などと共に用います。もし驚恐不安、煩躁不寧(いらいらして落ち着かない)場合には清胆経(清肝経では?)、按揉百会と共に用います。



2.推坎宮(推眉弓)
(眉弓軽擦)
 〔位置〕 両眉弓。
 〔手法〕 両母指指腹で、眉心(両眉毛の中心)から眉尾に向かって左右同時に軽擦、反復30〜50回。
 〔主治〕 外感発熱(かぜの発熱)、驚風(ひきつけ)、頭痛、目赤痛。
 〔臨床応用〕 外感発熱(かぜの発熱)、頭痛に常用しますが、多く開天門揉太陽と共に用います。もし目赤痛の治療に用いるときには、清胆経(清肝経では?)、コウ揉魚際交清河水と共に用います。また軽擦した後点状瀉血あるいはコウ按(母指頭圧迫)法を用いて、治療法を強めても宜しいです。


3.揉太陽
 (太陽揉捏)
 〔位置〕 眉の後の陥凹部。
 〔手法〕 両手の中指指腹に、示指を重ねて回旋揉捏法30〜50回。両母指指腹で回旋揉捏法をしても良いです。眼の方向に揉捏するのを補となし、耳の方向に揉捏するのを瀉とします。両母指の橈側面で、前から後ろへと直っすぐ推すのを、推太陽(太陽穴軽擦)といいます。
 〔主治〕 発熱、頭痛、驚風(ひきつけ)、目赤痛。
 〔臨床応用〕 外感表実頭痛(かぜによる激しい頭痛)には瀉法を用い、外感表虚、内傷頭痛(元気のないかぜやその他の頭痛)には補法を用います。太陽穴軽擦は主に外感発熱(かぜの発熱)に用います。



4.コウ山根
 (鼻根つめ針)
 〔位置〕 両方の内眼角の中央。
 〔手法〕 母指あるいは示指の爪でおさえます、3〜5回。
 〔主治〕 驚風(ひきつけ)、抽チク(ひきつけ)。
 〔臨床応用〕 驚風(ひきつけ)、昏迷(意識朦朧)、抽チク(ひきつけ)などの症に対しては、常にコウ人中コウ老龍を共に用います。本穴はまた望診に用いることができます。鼻根のところに青筋が顕著に出ているものは、脾胃虚寒(胃腸虚弱)あるいは驚風(ひきつけ)と見做します。



5.コウ人中(コウ水溝)
(人中つめ針)
 〔位置〕 人中溝の上から1/3と下から2/3の境界点。
 〔手法〕 母指の爪でおさえます、5回、ただし覚醒したらすぐに止めます。
 〔主治〕 驚風(ひきつけ)、昏厥(人事不省)、抽チク(ひきつけ)、新生児窒息。
 〔臨床応用〕 主に救急に使いますが、人事不省、窒息、驚厥(びっくりして気を失う)時に、このツボにゆび針をすると有効ですが、多くはコウ十宣コウ老龍と共に用います。



6.揉迎香
 (迎香揉捏)
 〔位畳〕 鼻翼の傍ら0.5寸、鼻唇溝中。
 〔手法〕 示指中指二指で左右両穴をおさえて揉捏、20〜30回。
 〔主治〕 鼻塞流涕(鼻づまり鼻みず)、口眼歪斜(顔面神経麻痺で顔がゆがむ)。
 〔臨床応用〕 感冒あるいは慢性鼻炎によって引き起された鼻塞流涕(鼻づまり鼻みず)、呼吸不暢(困難)に用いると、効果は比較的宜しいです。多くは清肺経拿風池などと共に用います。



7.揉牙関(揉頬車)
(頬車揉捏)
 〔位置〕 下顎角前上方1横指、カをいれて歯を咬み合わせたとき、咬筋の隆起するところ。
 〔手法〕 中指あるいは母指で揉捏30回、圧迫5〜10回。
 〔主治〕 牙関緊閉(癲癇などで歯をぎゅっとかみ合わせる)、口眼歪斜(顔面神経麻痺で顔がゆがむ)。
 〔臨床応用〕 牙関緊閉には圧迫法が宜しい、口眼歪斜には揉捏法が宜しい。



8.按揉百会
 (百会圧迫揉捏)
 〔位置〕 両耳尖の直上と頭頂正中線の交わるところ。
 〔手法〕 母指で圧迫30〜50回、揉捏100〜200回。
 〔主治〕 頭痛、脱肛、驚癇。
 〔臨床応用〕 百会は「諸陽之会」(陽の集まるところ)で、圧迫揉捏すると安神鎮驚(精神を安定させ驚恐を鎮静させる)、升陽挙陥(陽を昇らせて内臓下垂を引き上げる)の効能があります。驚風(ひきつけ)煩躁(いらいら)などの等症を治療しますが、多く清肝経清心経揉コウ魚際交と共に用います。脱肛、遺尿(夜尿)に用いますが、常に与補脾経補腎経推三関揉丹田と共に用います。



9.揉高骨
(完骨揉捏)
 〔位置〕 耳の後髪際を入る、乳様突起後縁下の陥中。
 〔手法〕 両母指あるいは中指で左右両穴をおさえ揉捏、30〜50回。
 〔主治〕 頭痛、驚風(ひきつけ)、煩躁不安(落ち着きがなく不安)。
 〔臨床応用〕 感冒の頭痛を治療しますが、多くは開天門推坎宮揉大陽と共に用います。臨床の習慣上四大常用手法と言います。



 10.推天柱骨
 (項部正中軽擦)
 〔位置〕 頭の後髪際正中から大椎穴に至る一直線。
 〔手法〕 母指指腹あるいは示指・中指指腹で、上から下へと直っすぐに軽擦100〜500回。あるいはスプーンを用いて上から下へと柔らかくこすっていき、皮膚を軽くうっ血させます。
 〔主治〕 嘔吐、項強(うなじの強ばり)、発熱、驚風(ひきつけ)、咽痛。
 〔臨床応用〕 この手法は降逆止嘔(嘔吐を止める)、去風散寒(悪寒を取り去る)効能があります。嘔吐を治療する際には多く横紋推向板門揉中カンと共に用います。外感発熱(かぜの発熱)、項強(うなじの強ばり)を治療するときには多く拿風地コウ揉二扇門と共に用います。



11.跪按耳門
 (耳門揉捏圧迫)
 〔位置〕 耳珠前切痕の前方、口を開いたときの陥凹部。この穴位はまた耳門穴とも言います。
 〔手法〕 両手の母指・示指を患児の両耳珠のところに曲げておき、母指を屈曲して指間関節の背面で、揉揉30回、圧迫5〜10回。
 〔主治〕 驚風(ひきつけ)、耳鳴。
 〔臨床応用〕 多くはコウ人中揉牙関と共に用います。また望診用に活用できます、すなわち色が黒ければ寒となし疝(疝痛)となし、色が青ければ躁(苛立ち)となし風(風邪)となします。



12.拿橋弓
(胸鎖乳突筋把握揉捏)
 〔位置〕 頚部両側、胸鎖乳突筋の線に沿って。
 〔手法〕 片手の拿法で患側の頚の傍らの胸鎖乳突筋を把握揉捏、30〜50回。筋肉が硬結しているところは強い把握揉捏を3〜5回。母指あるいは示指・中指の指腹で軽擦50〜100回。
 〔主治〕 新生児の筋性斜頚、項強(うなじの強ばり)。
 〔臨床応用〕 この法は斜頚に常用しますが、手法の軽重は適当でなくてはならないし、部位も正確でないといけません、総頚動脈を把握揉捏してはいけません。


目次一覧表

HOME BACK